1970年11月25日、三島由紀夫が自衛隊市ヶ谷駐屯地(現防衛省)に乱入、割腹自殺した事件は、当時小学2年生だった私にも鮮烈な印象を残した。
テレビや新聞が「狂気の沙汰」というニュアンスで報じた一方、偉大なる文学者が国を憂えて壮絶な自決を遂げた、と称賛する文化人の声も耳にしている。
その中でいまも覚えているのは、少年漫画月刊紙〈冒険王〉(秋田書店)に連載中だった『夕やけ番長』(1967〜1971年)の主人公・赤城忠治が「三島先生」の行動に感激していたことだ。
原作者・梶原一騎も三島の自決にシンパシーを抱いていたらしいが、それを少年漫画誌で表現していたのがすごいと言うか何と言うか。
冷静に考えれば、三島がやったことは明らかな犯罪である。
三島以外の、例えば彼以後に登場し、時代の寵児となってカリスマ視された作家の誰が同じことをやったとしても、これほど肯定的、かつ伝説的に語り継がれはしなかっただろう。
今日まで何度も反芻、検証されてきたこの事件を、本作はまず、三島に斬りつけられた当時の自衛官・寺尾克美の視点から振り返る。
番組制作時点で90歳だった寺尾の証言は極めて明快で、東部方面総監室に楯の会の若者たちが殴り込んできた状況を手振り身振りを交えて再現。
さらに、いまでは資料室となっているこの総監室でシャツをまくり上げ、三島に日本刀で斬られた傷痕まで見せている。
長さは30㎝、深さは肋骨にまで達していたというが、「殺意はないと感じた」と寺尾は言う。
続けて、その三島に木刀で立ち向かった自衛官・高橋清が登場。
こちらも93歳という高齢にもかかわらず、大変わかりやすい声と口調で、危うく指を切断されそうになった三島との対決を再現している。
駐屯地内の別室で待機していた楯の会会員・篠原裕、三島の演説を録音した文化放送記者・三木明博(ともに72歳)の証言も実に興味深い。
しかし、誰も彼も三島の行動に肯定的、とはいかないまでも、少なくとも否定的ではなく、むしろ懐かしむように三島事件を語っている。
三島はこの壮絶な最期によって永遠に語り継がれるイコンとなり、数多のエピゴーネンを生んだ。
この番組もまた、今日まで延々と産み落とされて続けている〝三島チルドレン〟による作品なのかもしれない。
オススメ度A。