銀行員との会話

支店の応接室に置いてあった〝振り込め詐欺防止キャンペーングッズ〟の朱肉

今年は昨年に続いて2年連続の減収減益になりそうである。
フリーの身の上で、56歳という年齢からも、収入が右肩上がりにならないのは当然だが、来年はもっと頑張って稼がなければならない。

そんなことを考えていた数日前、銀行から電話がかかってきた。
「今月で満期を迎える定期預金が1本あります、これまでと同じように自動継続としておくこともできますが、もっとお得な商品もありますので」云々、といういつもの勧誘。

こちらの反応もいつも通りで、「投資ならやりませんよ」と、一度は答えた。
同業者の中にはアパート経営や株・不動産投資などの副業に精を出している人もいるが、物書きは原稿料(番組出演料含む)だけで食べていくべき、というのが私の哲学なのだ。

と言うとカッコいいけれど、実際は要するに、ただ単に面倒臭いだけです。
資産運用と言えば、10年ほど前、銀行とのお付き合いで預金の一部を外貨預金に回したことぐらいしかなく、これもいまに至るまでほったらかし。

しかし、収入が減っている折、まとまった額のお金を年利0.01%の定期に置きっぱなしにしておくのも、もったいないと言えばもったいない。
久しぶりに銀行の話を聞くだけなら損もするまいと思い、きのう、口座のある神楽坂支店に行ってきました。

しばらく来ないうちに雰囲気が変わったなあ、と思ったら、最近になって飯田橋支店と神楽坂支店が合併したんだとか。
あらかじめ電話で時間を決めておいたおかげで、待たされることもなく2階の応接室に通される。

2階には同様の相談室みたいな部屋がいくつかあって、ドアはオートロックになっており、銀行員の担当者が出入りするたびにいちいち解錠している。
物々し過ぎやしないかと思ったものの、いざ部屋に入って自分の資産の一覧表を机の上に出されると、なるほど、こんなものをうっかり第三者に見られたらたまらないな、と思った。

最初に〈お取引明細一覧表〉を見せられて、フリーになってから14年、結構預金が目減りしていることを痛感。
もっとも、担当の行員によると、この程度の減り具合ならマシなほうで、もっと急激に下がっているケースも多いという。

長らく放置していた外貨預金は、一時はそれなりの利益が出たものの、いまでは若干マイナスになっている、と説明された。
とはいえ、今後の為替レート次第で持ち直せる程度の損失なので、いま慌てて解約するよりは、しばらく様子を見たほうがいいらしい。

担当者は若く、私とは親子ほども年齢が違い、私の職業について何も知らなかった。
本当は知っていてとぼけてるんじゃないか、とも思ったけれど、「私たちはお客様の個人情報について、事前に検索しないように言われてるんです」と、彼女は言う。

なぜかと言うと、担当者があらかじめ自分のことを調べていると知ると、顧客によっては警戒心を抱き、話を進められなくなるケースが増えたからだそうだ。
とくに、女性の顧客が男性の担当者に対して不信感を持つことが多いという。

それはそれとして、私がこれまで、リスクの高い投資信託などの商品を断り続けていることなど、預金者としてどのような考えを持っているかということに関しては、きちんと前任者から引き継がれていました。
そこで、改めて自分の考えを彼女に伝えたんですよ。

私は14年前、当時としては高給(彼女には具体的な金額を伝えた)をもらっていた会社を辞め、自分の著書を出したいからフリーになった。
それは人生で最大の賭けであり、その時点で相当なリスクを背負ったわけだから、いざというときに引き出せる、ある程度まとまった額の現金を手元においておきたい。

だから、元本割れの恐れが小さくないリスキーな資産運用をする気にはなれないんだよ、と。
私の話が一段落するまで、彼女は自分から運用のアイデアや投資信託などの話を持ち出そうとせず、これには好感が持てた。

さて、そういう考えを持つ56歳の顧客に勧めるとしたら、定期以外にどのような商品があるのか、と、こちらから促して、やっと具体的な話に移る。
ここから先の詳しい内容は省略するが、それなりに安全で、納得のできる選択に落ち着いた、と思う。

午後1時に始まった話がすべて終わったのは4時40分。
久しぶりの銀行員との長話は大変勉強になりました。

夜は小田急で新百合ヶ丘まで足を伸ばし、この近辺に住んでいる巨人OBの方々と中華レストランで忘年会。
彼らとは30年近い付き合いで、みんな50歳を超えたけれど、それぞれに仕事を持ち、元気にやっていて、こうして美味い酒が飲めるのがうれしい。

新百合ヶ丘〈赤坂離宮〉の鱶鰭の姿煮
スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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