西部劇がすっかり下火になっていた34年前、クリント・イーストウッドが製作・監督・主演の1人3役で作り上げたワンマン・ウエスタン。
アメリカ製TVドラマ西部劇『ローハイド』(1959〜63年)、マカロニウエスタン『荒野の用心棒』(1964年)でブレークしたイーストウッドが最初に大きな影響を受け、この時代に復活させようとした名作のオマージュに溢れている。
舞台はゴールドラッシュに沸いていたカリフォルニアのカーボン峡谷。
ここの金採掘権を持ち、集落を作って住み着いた開拓民を追い出そうと、財産家の鉱山主コイ・ラフッド(リチャード・ダイサート)、その息子ジョシュ(クリストファー・ペン)が様々な嫌がらせを続けている。
そのフラッド一味にボコボコにされていたハル・バレット(マイケル・モリアーティ)を救い、彼の家に居候するのが主人公の牧師(イーストウッド)。
家にはバレットが求婚しているサラ・ウィーラー(キャリー・スノッドグレス)と前夫との間にできた一人娘メイガン(シドニー・ペニー)がいて、彼女はやがて牧師に恋心を抱くようになる。
牧師のキャラクターは言うまでもなく、西部劇の古典『シェーン』(1953年)でアラン・ラッドが好演した主人公。
その『シェーン』を慕う少年ジョーイ・スターレット(ブランドン・デ・ワイルド)を少女に置き換えたのがメイガンである。
ただ、主人公を牧師にしたのは恐らく、マカロニウエスタン『ガンマン牧師』(1971年、イタリア、日本劇場未公開、吹替版テレビ放送のみ)へのオマージュだろう。
この映画の主人公、早撃ちの牧師を演じたガイ・マディソンは1940年代、西部劇のスターだった。
このように、アメリカ本国の正統的西部劇、当時はキワモノ扱いされていたイタリアのマカロニ双方へのオマージュが渾然一体化しているところに、本作の特徴と魅力がある。
こういう映画はイーストウッドでなければ作れなかっただろう。
イーストウッドはオープニングで馬に乗って雪山の中から登場し、エンディングではまた雪山の向こうに去っていく。
これは明らかに、セルジオ・コルブッチ監督、ジャン=ルイ・トランティニャン主演のマカロニウエスタン『殺しが静かにやってくる』(1968年)の模倣、及び自ら監督・主演した『荒野のストレンジャー』(1973年)の再現。
クライマックスで牧師と対決するストックバーン保安官(ジョン・ラッセル)と、彼が率いる6人のロングコートのガンマンたちは、『ウエスタン』(1968年)のフランク(ヘンリー・フォンダ)とその手下たち。
彼らが鄙びた街でカーボン峡谷の住民スパイダー(ダグ・マクグラス)を虐殺する場面は、『シェーン』のジャック・ウィルソン(ジャック・パランス)による殺人のバージョンアップ版と言っていい。
街角に潜んだ牧師がひとり、またひとりと6人のガンマンたちを撃ち殺していくくだりはもちろん、『真昼の決闘』(1942年)の保安官ウィル・ケイン(ゲイリー・クーパー)。
もともと、長身と長い脚を特徴的に見せたイーストウッドのロボットのような歩き方はクーパーを真似したものだと、生前の松方弘樹が指摘していた。
当初はジョシュ・ラフッドに雇われていながら、途中から牧師の味方に回る用心棒のクラブ、リチャード・キールがいい味を出していることも付記しておきたい。
欠点を挙げるとすれば、悪役のラッセルが『ウエスタン』のフォンダや『シェーン』のパランスに比べると日本では有名ではなく、イーストウッドの仇敵にしてはいささか貫禄不足に見えることか。
オススメ度A。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(*^o^*) B=よかったら( ´▽`) C=気になったら(・・?) D=ヒマだ ったら(。-_-。)
※ビデオソフト無し
120『刑事マディガン』(1968年/米)C
119『十二人の死にたい子どもたち』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
118『マスカレード・ホテル』(2019年/東宝)A
117『コンフェッション』(1998年/米)B
116『隣人は静かに笑う』(1999年/米)A
115『ミスター・ガラス』(2019年/米)C
114『アリー スター誕生』(2018年/米)A
113『荒野のストレンジャー』(1973年/米)B
112『セルピコ』(1974年/米)A
111『レイジング・ブル』(1980年/米)A
110『ニセコイ』(2018年/東宝)D
109『来る』(2018年/東宝)B
108『獄門島』(1977年/東宝)C
107『悪魔の手毬唄』(1977年/東宝)C
106『犬神家の一族』(1976年/東宝)B
105『止められるか、俺たちを』(2018年/若松プロ、スコーレ)C
104『モリーズ・ゲーム』(2017年/米)A
103『ガタカ』(1997年/米)A
102『デューン 砂の惑星』(1984年/米)C
101『ファイヤーフォックス』(1982年/米)C
100『デス・ウィッシュ』(2018年/米)C
99『人魚の眠る家』(2018年/松竹)A
98『焼肉ドラゴン』(2018年/ファントム・フィルム)B
97『アニメ 大好きだったあなたへ ヒバクシャからの手紙』(2019年/NHK広島放送局)A※
96『ひろしま』(1953年/北星映画)B※
95『硫黄島からの手紙』(2006年/米)A
94『父親たちの星条旗』(2006年/米)A
93『さすらいの一匹狼』(1966年/伊、西)C
92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※
1『大殺陣』(1964年/東映京都)C