アル・パチーノ若き日の代表作であると同時に、1970年代アメリカの世相や社会情勢を伝える社会派エンターテインメントの名作。
当時、ニューヨーク市警に蔓延していた腐敗と汚職を内部告発した実在の警官、フランク・セルピコの伝記を映画化した作品である。
開巻、顔面を銃撃されて重傷を負ったセルピコ(パチーノ)が、同僚の運転するパトカーで救急病院に担ぎ込まれる。
この連絡を受けた警官たちは誰もが複雑な表情を浮かべ、「あいつは仲間内のみんなに憎まれていたからな」などとつぶやく。
セルピコはなぜ、生命の危機にありながら、同僚たちに心配も同情もしてもらえないのか。
映画はセルピコが警察学校の卒業式に出席した場面に遡り、彼がなぜ警察内部で疎まれるようになったかを語ってゆく。
セルピコは配属された93分署で、地回りのパートナーして組んだ先輩刑事がノミ屋から賄賂を徴収している姿を目の当たりにする。
さらに、その一部を先輩から「これがおまえの取り分だ」と押しつけられそうになり、「そんな金は受け取れない」と拒むと、「じゃあおまえのぶんはしばらくおれが預かっておこう」と言われた。
ニューヨーク市警の地回りの間では、こういう犯罪者からの賄賂が常態化しており、刑事たちが持ち回りで徴収役を担当していたのだ。
頑として賄賂を撥ねつけたセルピコはマクレイン分署長(ビフ・マクガイア)に相談し、ブロンクスの麻薬課へ異動となるが、ここでも刑事たちが売人から賄賂をせしめている。
このような腐敗を放置してはおけないと、セルピコは警察内部の調査会に訴えたが、結果は調査部長によって黙殺。
それならばと、キャリア警官でニューヨーク市長室勤務の友人ボブ・ブレア(トニー・ロバーツ)を頼って市長に直訴しようとするが、これも受け入れてもらえない。
やがて、セルピコの言動は同僚の警官たちに知れ渡り、市警内部で疎まれる存在になってゆく。
セルピコが麻薬取引の潜入捜査のため、わざと髭を生やし、薄汚い身なりで調査をしていると、そうした姿がまた昔ながらのスタイルで背広を着用している先輩たちの反感を買う。
そうした最中、労務者かホームレスのような格好をしていたセルピコが、警官に強盗犯と間違えられて撃たれるアクシデントが発生。
これが、クライマックスでセルピコが撃たれる重要な布石になっている。
こうして腐敗した警察社会でもがき続けるセルピコの姿を、社会派の名匠として知られたシドニー・ルメット監督は、実にきめ細かく、息詰まるような緊迫感を漂わせながら描いている。
もともとは貧しいイタリア移民の息子で、良く言えば純粋、悪く言えば子供っぽく、事あるごとにキレるセルピコを演じるパチーノも、この時代のベストと言っていい好演。
とくに、セルピコが子供のころ、「大きくなったらおれも絶対おまわりさんになるんだ」と決心した思い出を恋人のローリー(バーバラ・エダ・ヤング)に打ち明ける場面がいい。
家の近所で事件が発生し、大勢の警察官がやってくると、紅海が割れるように野次馬たちが道を空け、その中を堂々と進んでいく制服姿がとても立派でカッコよく見えた、というのである。
パチーノ&ルメットは『狼たちの午後』(1975年)でもふたたびタッグを組み、今度は犯罪者の側から1970年代アメリカの世相を斬って見せた。
この時代は暗く、重苦しく、汗臭かったけど、やっぱり面白かったなあ、とシミジミ思い返した名篇。
オススメ度A。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(*^o^*) B=よかったら( ´▽`) C=気になったら(・・?) D=ヒマだ ったら(。-_-。)
※ビデオソフト無し
111『レイジング・ブル』(1980年/米)A
110『ニセコイ』(2018年/東宝)D
109『来る』(2018年/東宝)B
108『獄門島』(1977年/東宝)C
107『悪魔の手毬唄』(1977年/東宝)C
106『犬神家の一族』(1976年/東宝)B
105『止められるか、俺たちを』(2018年/若松プロ、スコーレ)C
104『モリーズ・ゲーム』(2017年/米)A
103『ガタカ』(1997年/米)A
102『デューン 砂の惑星』(1984年/米)C
101『ファイヤーフォックス』(1982年/米)C
100『デス・ウィッシュ』(2018年/米)C
99『人魚の眠る家』(2018年/松竹)A
98『焼肉ドラゴン』(2018年/ファントム・フィルム)B
97『アニメ 大好きだったあなたへ ヒバクシャからの手紙』(2019年/NHK広島放送局)A※
96『ひろしま』(1953年/北星映画)B※
95『硫黄島からの手紙』(2006年/米)A
94『父親たちの星条旗』(2006年/米)A
93『さすらいの一匹狼』(1966年/伊、西)C
92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※
1『大殺陣』(1964年/東映京都)C