この映画は中学2年だった1976年、『土曜洋画劇場』(NET=現テレビ朝日)で放送された吹替短縮版を両親と一緒に観た記憶がある。
クリント・イーストウッド監督・主演なのでてっきり『荒野の用心棒』(1964年)のように痛快な西部劇かと思ったら、妙にモヤモヤ、まったりとした雰囲気で、しかも放送時間正味1時間ちょっとと大幅にカットされていたものだから、よく理解できないままに終わってしまった。
鉱山の収益によって成り立っている湖畔の町ラーゴに、山の彼方の陽炎の中から流れ者(イーストウッド)が馬に乗ってやってくる。
ふらりと立ち寄った酒場と床屋でならず者3人が絡んでくるや、流れ者はあっという間の早撃ちでこの連中を射殺。
さすがのツカミはイーストウッドの西部劇ならでは、と思っていたら、この流れ者は通りで食ってかかってきた女キャリー・トラヴァース(マリアンナ・ヒル)をひっぱたき、馬小屋に連れ込んでレイプしてしまう。
その後、押し掛けるようにしてホテルに泊まった流れ者に、保安官はこの町を守るために力を貸してほしい、と頼み込む。
もうすぐ郡刑務所から、かつてこの町に鉱山会社の用心棒として派遣され、金塊を盗もうとして逮捕された男3人が出所する。
やつらは必ずお礼参りにやってくるだろう、そのためにこちらも新たに3人の拳銃使いを雇っていたが、彼らはあんたが殺してしまった、そのことはもう問わないから、ムショ帰りのやつらをやっつけてくれ、というのだ。
報酬は弾む、この町の物は何でもタダで提供しよう、インディアンやメキシカンの若い女をつけてもいい、という申し出を流れ者は快諾。
酒場の店主に酒を振る舞わせ、ルイス・ベルディング(テッド・ハートレー)の経営するホテルで最高級の続き部屋を取り、そこでベルディングの妻サラ(ヴェルナ・ブルーム)に食事の世話までさせる。
さらに、保安官と町長の権限を勝手に剥奪し、自分になついている棺桶屋の小人モルデカイ(ビリー・カーティス)を保安官兼町長に任命。
いよいよならず者が出所する日になると、流れ者はルイスのホテルからほかの宿泊客全員を追い出し、町の建物すべてを赤いペンキで塗れと言い出すなど、意味不明の指示を連発する。
ルイスたちが頭に来て流れ者の寝込みを襲おうとすると、流れ者はすかさず拳銃で返り討ちにしただけでなく、ホテルの部屋ごとダイナマイトで吹き飛ばしてしまった。
この流れ者はなぜラーゴの町でこれほど傍若無人に振る舞うのか、様子を見守っていたモルデカイは、流れ者がかつてこの町で見殺しにされた保安官ジム・ダンカンに似ていることに気づく。
そのダンカンをムチで嬲り殺しにした犯人こそ、いままさに刑務所からラーゴに向かっている元用心棒たち、ステイシー・ブリッジ(ジェフリー・ルイス)、コール・カーリン(アンソニー・ジェームス)、ダン・カーリン(ダン・ヴァデス)だった。
ダンカンの死体はモルデカイによって町外れの空き地に埋められ、墓碑も十字架も建てられていない。
ラーゴの生命線でもある金鉱は国有で、鉱山会社も町の住民も長年違法占拠して利益を得ていた。
ダンカンはこの事実を告発しようとして用心棒に殺され、だから町の住民たちも助けようとしなかったのだ。
クライマックスは、流れ者がラーゴの町に火を放ち、ムチと拳銃でブリッジらを血祭りに上げて復讐を果たす。
翌朝、墓地で新しい墓碑銘を刻んでいたモルデカイの傍らを、ふたたび馬に乗って町から去ろうとしていた流れ者が通りかかる。
「せめて名前だけでも教えていってくれないか」というモルデカイに、「もう知ってるはずだ」と流れ者は答える。
ちょうどモルデカイが墓に刻んでいたのは、ジム・ダンカンの名前だったのだ。
この場面、土曜洋画劇場版ではアテレコした山田康雄が「ジム・ダンカン」とはっきり名前を語っており、直後の墓碑銘の場面がカット。
エンディングはオープニングと同じ山の彼方の陽炎で、その中へ入っていった流れ者の後ろ姿が掻き消えるところで映画は終わる。
イーストウッドの演じる名無しの流れ者のキャラクターは明らかに、自身がセルジオ・レオーネの『荒野の用心棒』など3作品で演じた主人公、レオーネが『ウエスタン』(1968年)でチャールズ・ブロンソンに演じさせた名無しの男を下敷きにしている。
なるほど、イーストウッドはこのころから、自らもレオーネの創造した幻想的でノスタルジックな映像世界を志向していたのか。
こういう映画の性格と味わいは、吹替短縮版ではわかりにくいのも道理。
中学生のころから抱えていたモヤモヤがやっとスッキリして、陽炎の中の亡霊のように消えていった。
オススメ度B。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(*^o^*) B=よかったら( ´▽`) C=気になったら(・・?) D=ヒマだ ったら(。-_-。)
※ビデオソフト無し
112『セルピコ』(1974年/米)A
111『レイジング・ブル』(1980年/米)A
110『ニセコイ』(2018年/東宝)D
109『来る』(2018年/東宝)B
108『獄門島』(1977年/東宝)C
107『悪魔の手毬唄』(1977年/東宝)C
106『犬神家の一族』(1976年/東宝)B
105『止められるか、俺たちを』(2018年/若松プロ、スコーレ)C
104『モリーズ・ゲーム』(2017年/米)A
103『ガタカ』(1997年/米)A
102『デューン 砂の惑星』(1984年/米)C
101『ファイヤーフォックス』(1982年/米)C
100『デス・ウィッシュ』(2018年/米)C
99『人魚の眠る家』(2018年/松竹)A
98『焼肉ドラゴン』(2018年/ファントム・フィルム)B
97『アニメ 大好きだったあなたへ ヒバクシャからの手紙』(2019年/NHK広島放送局)A※
96『ひろしま』(1953年/北星映画)B※
95『硫黄島からの手紙』(2006年/米)A
94『父親たちの星条旗』(2006年/米)A
93『さすらいの一匹狼』(1966年/伊、西)C
92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※
1『大殺陣』(1964年/東映京都)C