BS1スペシャル『ヒロシマの画家 四國五郎が伝える戦争の記憶』(NHK-BS)

 110分 初放送:2019年8月5日午後9時〜、再放送:同月17日午後3時〜

2019年を振り返るのはまだ早いかもしれないが、今年は仕事の様々な局面で故郷・広島がどういうところであったかを再認識させられた。
達川光男さんの著書『広島力』の構成、Sports Graphic Numberでのカープの大瀬良大地投手と佐々岡真司新監督のインタビュー、それに中国新聞に寄稿した泉美術館の特別展示会『見る・知る・楽しむ カープ物語』の感想。

そのすべてが、広島という街の昔についても今についても、初めて知ること、改めて感じることの多い仕事だった。
同時に、広島に生まれた人間のくせに、ああ、わしはこんなことも知らんかったんかと、自分の不勉強さを痛感させられもした。

そうした中、広島が輩出した画家・四國五郎の活動と人物像を教えてくれたのが、原爆の日の前日、終戦の日の2日後にNHK-BSで放送されたこのドキュメンタリーである。
生命の危機に晒された戦場とシベリア、終戦から4日後に帰国して知った弟・直登の被爆死、それから取り組んだ絵と詩作を通しての反戦運動。

その一つ一つが凄絶で、筆舌に尽くし難く、しかしだからこそ、私などには容易に表現し得ない生命力に溢れている。
四國は有名な母子像の数々をはじめ、原爆に関する絵を次々に描きながら、その作品を売ってお金にしようとはしなかった。

生活の糧は広島市役所に勤務して得ていたという。
そういう仕事をしながら、被爆者が収容された養護施設に自ら何度も足を運び、無償で似顔絵を描いて彼らを励ましていた。

また、戦前のお好み焼き屋や商店街など、市井の人たちの生活を活写した素朴なイラストレーションの数々が素晴らしい。
とくに〈なめくじ横丁〉を描いた作品は、弟子にあたる広島出身の画家ガタロ(本名:福井英二)に強い感銘を与えた。

そのガタロが、四國の影響の下に描いた被爆者のバラック街(いわゆる原爆スラム)の絵にも熱く力強いエネルギーを感じた。
ちなみに、本作収録時のガタロは69歳、本職は市の清掃員で、公衆便所を掃除している姿も映し出されていて、これも強烈な印象を残す。

本作にはそのガタロや四國の長男・光氏をはじめ、四國とシベリアで一緒だった戦友、ともに反戦活動をしていた同士、四國に似顔絵を描いてもらった被爆者たちがインタビューに登場。
様々な視点と角度による四國のエピソードを積み重ね、複雑な人物像を再現することに成功している。

未見の方にはぜひ、オンデマンドや再放送の機会に鑑賞していただきたい。
オススメ度A。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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