例年、広島原爆の日・8月6日から終戦の日・8月15日にかけて、NHKでは様々な良質のドキュメンタリーが放送される。
本作もその1本で、終戦から約3カ月後の昭和20年11月23日、神宮球場で行われた戦後初のプロ野球試合、東西対抗戦がどのような試合だったかを検証し、再現したもの。
ぼくがこの試合を知ったのは、辺見じゅんによる大下弘の評伝『大下弘 虹の生涯』(1992年/新潮社)だった。
当時、神宮には新人だった大下のほか、藤村富美男、鶴岡一人、千葉繁、土井垣武、別所昭(のち毅彦)ら、戦前からのスターだった錚々たる顔ぶれが出場している。
いまでは写真もラジオ中継の録音も残っていないこの試合を、本作はベテランアナウンサー・工藤三郎さんを使って実況を再現。
工藤さん独特の名調子によって、戦後の野球熱を再燃させるきっかけとなった伝説の試合を生き生きと描くことに成功している。
とくに、大下弘の初打席、「新人・大下、タイムリーヒット!」と抑えた口調で伝えているところがいい。
できれば、工藤さんの実況に、ご存命なら鶴岡一人さん、川上哲治さん、青田昇さんあたりの解説を加えてほしかった、というのは無い物ねだりだが。
NHKには今後も、音源の失われた伝説の試合をこの手法で再現してほしいものである。
1934年に正力松太郎が実現させた日米野球、ベーブ・ルースと沢村栄治の対決の音源は残っているのだろうか。
解説者の中ではやはり、同時代人の杉下茂さんの語りが味わい深かった。
オススメ度A。