1969年、アメリカのメジャー・リーグの向こうを張って、カリブ海沿岸諸国で試合を開催するグローバル・リーグという独立リーグが旗揚げされた。
ニューヨークとロサンゼルスに本拠地を置くアメリカ2チーム、ベネズエラ、プエルトリコ、ドミニカ、それに日本から各1チームと合計6チームが参加。
それぞれの国を転戦しながらリーグ戦を行うという、触れ込みだけは文字通り「グローバル」な団体だった。
本作は勇躍この新興リーグに参加した東京ドラゴンズの物語である。
監督は森徹、エース兼通訳が古賀英彦、主力選手は矢ノ浦国満や関根勇ら、一度は日本球界で勇名を馳せながら、志半ばにして引退、もしくは日本を離れざるを得なかった猛者たち。
ほぼ全員が実名で登場しており、彼らへの取材に基づく東京ドラゴンズの悪戦苦闘ぶりがリアリティーたっぷりに再現されている。
本作は1981年から約1年間に渡ってサンデー毎日に連載され、毎日新聞社によって単行本にまとめられた。
同じく阿部牧郎による国民リーグを描いた労作『焦土の野球連盟』と同様、資料的価値もまことに高い。
そもそもリーグの実態がアメリカ西海岸の怪しげな不動産業者による幽霊団体のようなもので、試合も中南米諸国の山師みたいな興行主によって行われている。
開幕前から給料が払われるかどうかもわからない中、森ら日本のプロ野球選手たちが海千山千の興行師たちに翻弄されながら練習と試合に打ち込むくだりからして実に興味深い。
しかし、肝心のリーグ戦は4月に始まったと思ったら6月には中断。
野球自体の見世場が少ない中、上下2段組、計253ページで展開されるプロ野球の裏面史、これもぜひ電子書籍で復刻してほしいところだが。
2019読書目録
※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録
20『焦土の野球連盟』阿部牧郎(1987年/扶桑社)※
19『失われた球譜』阿部牧郎(1998年/文藝春秋)※
18『南海・島本講平の詩』(1971年/中央公論社)※
17『カムバック!』テリー・プルート著、廣木明子訳(1990年/東京書籍)※
16『ボール・フォア 大リーグ・衝撃の内幕』ジム・バウトン著、帆足実生訳(1978年/恒文社)※
15『ショーケン 最終章』萩原健一(2019年/講談社)
14『頼むから静かにしてくれ Ⅱ』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2006年/中央公論新社)
13『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2006年/中央公論新社)
12『試合 ボクシング小説集』ジャック・ロンドン著、辻井栄滋訳(1987年/社会思想社 教養文庫)
11『ファースト・マン 月に初めて降り立った男、ニール・アームストロングの人生』ジェイムズ・R・ハンセン著、日暮雅通・水谷淳訳(2019年/河出文庫)
10『平成野球30年の30人』石田雄太(2019年/文藝春秋)
9『toritter とりったー』とり・みき(2011年/徳間書店)
8『Twitter社会論 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』津田大介(2009年/洋泉社)
7『極夜行』角幡唯介(2018年/文藝春秋)
6『力がなければ頭を使え 広商野球74の法則』迫田穆成、田尻賢誉(2018年/ベースボール・マガジン社)
5『OPEN アンドレ・アガシの自叙伝』アンドレ・アガシ著、川口由紀子訳(2012年/ベースボール・マガジン社)
4『桜の園・三人姉妹』アントン・チェーホフ著、神西清訳(1967年/新潮文庫)
3『かもめ・ワーニャ伯父さん』アントン・チェーホフ著、神西清訳(1967年/新潮文庫)
2『恋しくて』リチャード・フォード他、村上春樹編訳(2016年/中公文庫)
1『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』ティム・オブライエン他著、村上春樹編訳(2006年/中央公論新社)