『ゴッホ 最期の手紙』(WOWOW)

(Loving Vincent/95分 2017年 ポーランド、イギリス、アメリカ)

オランダの大画家ゴッホの伝記映画といえば、ミュージカルの巨匠ヴィンセント・ミネリが監督、カーク・タグラスがゴッホを演じ、アカデミー主演男優賞にノミネートされた『炎の人ゴッホ』(1956年)の印象が個人的には強い。
本作はそれから61年後、アニメーションによってゴッホの最期と彼を中心とした人間ドラマを描いた作品である。

それも単なるアニメではなく、まずゴッホや彼に関係する人物を俳優たちに演じさせて撮影し、その映像を細密な油絵として描画。
さらに、その油絵すべてにゴッホの手法を用い、アニメにして動かすという前代未聞の実験的手法が採られている。

近年、これほど野心的な試みがほかにあったかどうか、スポーツと同じくらい映画を熱心に観ている私も記憶にないほど。
最初のうちはあまりに斬新な画面ばかりに気を取られ、うっかり字幕を読むのを何度も忘れそうになったが、観ているうちにグイグイ惹き込まれてしまう。

監督のドロタ・コビエラはポーランド女性、ヒュー・ウェルチマンはイギリス男性で、本作の製作には125人の画家を招集したという。
ゴッホの絵を動かすという大胆な表現方法に加え、現在はカラーの鮮やかな油絵、過去はモノクロのスケッチ風の絵に切り替えるなど、観やすくするための工夫が施されていることも評価したい。

ただ、少々気になったのは、有名な「耳切り事件」の描き方。
実際は左耳の下の耳たぶを切り取っただけ、というのが定説で、ダグラスの『炎の人ゴッホ』もこれに従っていたが、本作では左耳全体を自らナイフで切断したことになっている。

また、自殺だったのか、他殺だったのか、いまだに謎とされている最期。
『炎の人ゴッホ』では、ゴッホの周囲にいた少年たちが銃をいじっているうちに暴発させ、この弾丸がゴッホの腹部に命中した、という言わば事故死として描かれていた。

しかし、本作ではより詳細な検証が行われ、また別の説が採られている。
果たして真相はどうだったのか、観ているこちらが首をひねっていると、画面いっぱいにゴッホの〝自画像〟が現れて終わる幕切れが独特の余韻を残す。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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