『愛の嵐』(WOWOW)

Il Portiere di notte, The Night Porter 117分 1975年 イタリア 日本配給:ヘラルド 
ノーカット完全版公開 1994年 日本配給:彩プロ 1997年

シャーロット・ランプリングが一躍国際的女優として脚光を浴びた恋愛映画。
監督、脚本、原作の1人3役で本作を作り上げたイタリアの女流映像作家リリアーナ・カヴァーニが世界的名声を確立した古典的作品でもある。

舞台は1957年、オーストリアの首都ウィーン。
庶民的なオペル・ホテルのポーターを務めているマックス(ダーク・ボガード)の目の前に、アメリカ人のオーケストラ指揮者アザートン(マリノ・マッセ)、その妻ルチア(ランプリング)が宿泊にやってくる。

フロントで目を合わせた途端、激しく動揺するマックスとルチア。
実は、20年以上前、ナチスの高級将校で、ユダヤ人強制収容所の看守を務めていたマックスは、まだ15歳だったルチアを性の玩具として慰みものにしていた過去があったのだ。

最初のうちこそ、すぐにでもウィーンを離れたいと夫に訴えたルチアだが、夫が次の公演場所であるフランクフルトへ去ってからも、なぜかひとりだけホテルに居残る。
マックスはそれを待っていたかのように部屋に入ると、ルチアの頬を平手打ちして押し倒した。

こうして焼け木杭に火がついたマックスを、かつてのナチスの仲間たち、クラウス(フィリップ・ルロワ)、ハンス(ガブリエレ・フェルゼッティ)、バート(アメディオ・アモディオ)らは厳しく問い詰める。
戦時中にナチス党員だったことを隠し、ひっそりと人目を忍んで生きているのに、ルチアの口からわれわれの正体がバレたら、みんな逮捕されて死刑にされるかもしれないぞ、と。

ナチスというと、日本人であるわれわれはそのほとんどがドイツ人だったと思いがちだが、実はオーストリア人もかなりの数に上る。
戦後、ナチスの戦争犯罪を糾弾するユダヤ人の目がドイツに向けられていた間、元ナチスのオーストリア人は本作に描かれているように、自分たちが犯した戦争犯罪に頰被りをして生き延びていたという。

ドキュメンタリー映画出身のカヴァーニは、そうした戦後オーストリアの社会に厳しい眼差しを注ぎながら、映画の主眼はあくまで異常な状況下で結びついた元ナチスの将校とユダヤ人少女との〝悲恋〟に置いている。
1975年の初公開当時は性描写が過激だとして原版がカットされたものの、約20年後の94年に完全版が日の目を見、日本でも晴れて97年に再公開された。

ところで、脇役で一際目を引くのが、アモディオ演じる元ナチスのバレエダンサー、バートのキャラクター。
この個性とビジュアルはどこかで観た気がする、と思ったら、『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013年)でジャレッド・レトが演じたレイヨンだった。

レイヨンはトランスジェンダーで、バートがゲイの匂いを漂わせているところも共通している。
レトはあの映画でアカデミー助演男優賞を受賞したが、アモディオが観ていたらどう思っただろうか。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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