『デトロイト』(WOWOW)

(Detroit/143分 2017年 アメリカ=アンナプルナ・ピクチャーズ 日本公開2018年 ロングライド)

前項『クラッシュ』(2004年)と同じ黒人差別をテーマとしたキャスリン・ビグローの力作。
1967年7月23日、デトロイトで実際に起こった黒人暴動事件「12番街暴動」の最中、白人警官が黒人の一般市民を虐殺した「アルジェ・モーテル事件」を映画化した実録ものである。

冒頭、黒人たちの溜まり場となっている酒場にデトロイト市警がガサ入れをかけ、これに黒人客たちが猛反発。
ガサ入れが違法捜査であったことも含めて、これをきっかけに大規模な歴史的暴動に発展してゆく過程が紹介される。

何の予備知識もなく観たため、これはてっきり「12番街暴動」の全体像を題材とした映画かと思ったのだが、映画の視点は中盤からアルジェ・モーテルの内部へ移行。
ここで宿泊客の黒人カール・クーパー(ジェイソン・ミッチェル)が部屋で白人女性ジュリー・アン(ハンナ・マリー)、カレン・マロイ(ケイトリン・ディーヴァー)と騒いでいる最中、警官隊がひしめいている街路に向かってオモチャのスターターピストルを発砲する。

これをスナイパーの仕業と勘違いした刑事フィリップ・クラウス(ウィル・ポールター)は部下の警官を引き連れてアルジェ・モーテルに突入。
クラウスたちがその場に居合わせた黒人3人を殺し、黒人6人、白人3人に重傷を負わせた顛末を、ビグローは息詰まるようなタッチで描いてゆく。

この迫力と生々しさはビグローがアカデミー賞作品賞、女性初の監督賞を受賞した『ハート・ロッカー』(2008年)を彷彿とさせる。
人種差別主義者の刑事クラウスを演じるポールターも大変な熱演で、単に憎々しいだけでなく、差別感情に支配された人間の愚かしさを実に的確に表現している。

ただし、現実にはこの事件に関わった警官3人が殺人、傷害を働いたという物証はなく、裁判では全員に無罪判決が下った。
エンディングでは「本作は事件の被害者の証言を元に製作されている」という断り書きのテロップが出るが、ここまで断定的に警官たちを虐殺犯扱いしてもいいのか、嚥下しがたい疑問と違和感が残る。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12 『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B
1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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