『クラッシュ』(WOWOW)

(Crash/2004年 アメリカ=ライオンズゲート 日本公開2006年 ムービーアイ 113分)

前項『ラ・ラ・ランド』と同様、WOWOWの〈アカデミー賞特集〉で放送された第78回アカデミー賞受賞作品。
今年のオスカー受賞作『グリーンブック』と同様、現代社会に根強く残る人種差別をテーマにした人間ドラマである。

舞台は製作当時のロサンゼルスで、クリスマス間近のある夜に起こった自動車事故から物語は始まる。
この事故の前後1日半(36時間)、様々に錯綜した人間関係の中で、差別にまつわる葛藤が描かれる。

明確な主人公がいるわけではないが、強烈な印象を残すのはやはり、黒人差別主義者であることを隠そうともせず、黒人の取調で露骨な嫌がらせをするLA市警の巡査ライアン(マット・ディロン)。
そんなライアンの態度に嫌気が差し、仕事上のパートナーとしての関係を解消したい、と申し出るのが後輩の相棒トム(ライアン・フィリップ)。

このふたりが袂を分かち、別々の道を歩んでいく姿がストーリーの上で一応の縦軸になっている。
ライアンとトムがそれぞれに抜き差しならない状況で黒人と向き合ったとき、どちらもそれまでの主義主張からは想像できなかった行動を取る、というところが本作のキモ。

人種差別主義者がある特定の状況において自分の差別感情を捨てることができる一方、人種差別主義者でなくとも一瞬の出来事をきっかけに容易に差別主義者に転じることもあり得る。
本作の主題を一言で要約すれば、そういうことになろうか。

このテーマは半世紀以上も前、シドニー・ポワチエが主演した『招かれざる客』『夜の大捜査線』(ともに1967年)の時代から、『グリーンブック』が公開された今年まで、数え切れないほど何度となく映画化されてきた。
ということはつまり、ひょっとしたら、人間の世界から差別がなくなることは永遠にないのかと、絶望的な気分にもなるのだが。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12 『ホテル』(1977年/伊、西独)C
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B
1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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