高校野球の古豪、広島商業と如水館で監督を務め、春夏合わせて通算14回の甲子園出場を誇る名監督が語り明かした指導、教育、戦略の虎の巻。
迫田氏本人の一人称ではなく、スポーツジャーナリストの田尻氏による三人称形式が取られている。
本書で迫田監督が語っているのは、徹底して「チームが勝つため」の野球である。
最近は高校野球も、プロ入りした根尾昂(大阪桐蔭→中日)、藤原恭大(同→ロッテ)、小園海斗(報徳学園→広島)、清宮幸太郎(早実→日本ハム)、安田尚憲(履正社→ロッテ)らに代表されるように、個人技に優れた選手がもてはやされ、またそういう選手のいるチームが優勝争いに絡むことが多い。
しかし、迫田監督はのっけから、最近の高校野球を「野球が個人技になっている」と嘆き、批判する。
野球とはただ単に投げた、打った、走ったではなく、いかにして相手の隙を突き、嫌がられることをして、粘り強く1点をもぎ取るか、甲子園のような大舞台でそういう野球ができるチームが勝つ、と説くのだ。
個の能力で劣るチームを率いる迫田監督が、いかにして野球エリートぞろいの強豪校を打ち破ってきたか。
本書には、〝怪物〟江川卓を擁する作新学院をくだした1973年春の選抜準決勝をはじめ、実に様々なアイデア、戦術、練習方法が紹介されている。
迫田野球は野村克也氏の言う「弱者の兵法」であり、これだけチームとしての戦略に徹すれば、相手がいかなる強豪校と言えども勝つことは可能だろう。
それが野球というチームスポーツの醍醐味であり、痛快さのひとつなのだが、しかし、「こんなチマチマした野球をやって勝っても面白くない」という高校生も当然いる。
だから、ここに並べられた「法則」に説得力があるかどうかは、読む側の感性や野球観にもよるだろう。
実際、江川のいる作新に勝った時代、佃正樹や達川光男が3年生だった時代には、2年生に反抗されて練習が中断したこともある、というエピソードも語られている。
勝つための野球はどうあるべきなのか、プラス、マイナス両面から考えさせてくれる一冊。
ちなみに、教え子で広商OBの達川光男さんも本書を強く推奨しておられます。
2019読書目録
5『OPEN アンドレ・アガシの自叙伝』アンドレ・アガシ著、川口由紀子訳(2012年/ベースボール・マガジン社)
4『桜の園・三人姉妹』アントン・チェーホフ著、神西清訳(初出1900年〜/新潮文庫)
3『かもめ・ワーニャ伯父さん』アントン・チェーホフ著、神西清訳(初出1895年~/新潮文庫)
2『恋しくて』村上春樹編訳(2016年/中公文庫)
1『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』村上春樹編訳(2006年/中央公論新社)