『ブラックブック』(WOWOW)

(Zwartboek/2006年 オランダ/日本配給=ハピネット 2007年 145分 PG-12)

最近も『エル ELLE』(2016年)で健在ぶりを示したオランダの巨匠ポール・バーホーベンが、2006年に監督した第2次世界大戦の内幕物語。
終戦を間近に控え、ユダヤ人の財産を強奪していたナチスの手を逃れ、レジスタンスの一員となりながら、戦後は逆に同胞から命を狙われる女性の数奇な運命が描かれる。

1944年9月、女性歌手ラヘル・シュタイン(カリス・ファン・ハウテン)はオランダ・ハーグの隠れ家を連合軍に爆撃されて家族を失い、恋人のロブ(マイケル・ユイスマン)と南方へ逃亡を図る。
バーホーベンもハーグの出身で、連合軍の爆撃機がハーグに爆弾を落とす場面は自らの実体験に基づいているらしい。

逃亡の手引きをしたオランダ警察のファン・ハイン(ピーター・ブロック)は、着替えは少なく、手持ちの金をなるべくたくさん用意するようにと助言。
ラヘルは父親の遺産を管理している公証人スマール(ドルフ・デ・ライース)の元を訪ね、遺産を米ドルと宝石に替えてもらう。

しかし、ラヘルが同胞たちとともに乗り込んだ逃亡用の船は、待ち伏せしていたナチスによって銃撃され、金銀財宝のすべてを奪われる。
ひとりだけ難を逃れたラヘルはレジスタンスのリーダー、ヘルペン・カイパース(デレク・デ・リント)の元に身を寄せ、エリス・デ・フリースと名前を変えて生きていくことになった。

髪をブロンドに染めて出自を隠したエリスに、カイパースはナチスのルードヴィヒ・ムンツェ親衛隊大尉(セバスチャン・コッホ)に接近するよう要請。
ここまでに数々の死線をかいくぐり、したたかに生き延びることを学んでいたエリスは、あっさりと愛人になることを受け入れる。

ムンツェに抱かれるときに備え、陰毛まで金髪に染めていたエリスが、ブリーチの痛みに耐えかねて悲鳴をあげる場面が印象的だ。
しかし、エリスがフェラチオを始めようとすると、上から彼女の頭髪を観察していたムンツェは、たちどころにブロンドに染めていることを見抜いてしまう。

ところが、エリスに愛情を覚えたムンツェは、彼女がユダヤ人と知りながらもナチスに突き出さず、秘書兼事実上の妻としてパーティーにも同伴。
そんなエリスに反感を抱くユダヤ人もおり、スパイ活動を続ける彼女は、次第にレジスタンス内部で微妙な立場に追い込まれていく。

そうした最中、エリスはナチスのギュンター・フランケン(ワルデマー・コブス)の計略にハマり、ナチス側のスパイだったことにされてしまった。
終戦直後、一緒に逃亡していたムンツェは逮捕され、同胞たちに拉致された彼女は収容所で凄まじい虐待に遭う。

このあたり、いつもながらバーホーベンの描写は容赦なく、糞尿まみれにされたエリスの姿がまことに痛々しい。
それでも必死に生き延びようとする彼女は、味方のはずだったユダヤ人たちの中に自分を陥れた裏切り者がいることに気がつく。

終盤に展開されるエリスの復讐劇もまた非常に生々しい。
ナチスとユダヤ人を描いた映画は基本的にユダヤ人の立場に立ち、ナチスを一方的な悪役として描いているものがほとんどだが、実はユダヤ人やその仲間を自称する民族の人間たちにもロクデナシが多かったことがよくわかる。

オランダ人のバーホーベンは、主としてユダヤ人の側から語られてきた単純な善悪二元論を物の見事に吹き飛ばして見せた。
なお、エリスを陥れたオランダ人はアンドリス・ラプハーゲンという実在の人物がモデルで、『リプハーゲン オランダ史上最悪の戦犯』(2016年)というドキュメンタリー映画にもなっている。

オススメ度A。

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※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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