前項と同様、収録されているリチャード・フォードの短編が読みたくて買った村上春樹・編訳のアンソロジー。
タイトルからもわかる通り、現代アメリカ文学を中心に10篇のラブストーリーが収められている。
フォードの『モントリオールの恋人』は、不倫を続けているアメリカ人男性弁護士(49歳バツイチ)とカナダ人女性会計士(33歳既婚娘ひとり)のお話。
お互い結婚する意思はなく、そろそろ別れようと思いながらもズルズル関係を続けている最中、ふたりが夜を明かしたホテルに彼女の夫(25歳建築士)が電話をかけてくる。
パニック状態に陥りながらもどこか冷めている弁護士の心理描写はさすがフォードで、大いに読み応えがある。
が、オチはいささか作為が鼻に突き、現実にここまでやる人間はいないだろう、という思いが先に立って余韻に乏しい。
面白いけれど作り過ぎという印象が強かった作品としては、アリス・マンローの『ジャック・ランダ・ホテル』も同様。
ただ、相手の男がもう振り返ってはくれない、とわかってはいても追いかけずにはいられない〝大人の恋愛〟にのめり込む女の心理はとてもよく描けている。
一番面白いとは言えないが、素直に感動できるのはマイリー・メロイが2012年に発表した『愛し合う二人に代わって』。
小説の舞台であるモンタナ州では州法で〝代理結婚〟が認められており、当時はイラク戦争に派遣された兵士の男性とアメリカに残された女性がそれぞれ代役を立てて結婚する、というケースが多かったという(この小説によれば)。
ヒロイン・ブライディーの父親は弁護士で、自分の娘を新婦、彼女の高校の男友だち(ボーイフレンドではない)ウィリアムを新郎の代役に仕立てて、何組もの〝代理結婚〟を成立させていた。
ウィリアムはブライディーに密かに好意を寄せており、ブライディーも気づいているらしいのだが、それ以上の関係には発展せず、高校卒業後、彼女は女優を夢見てニューヨークへ引っ越してしまう。
その後、ウィリアムには彼女ができたものの長続きせず、ブライディーはNYで結婚した男性とほどなく離婚。
夏休みに帰郷してきたブライディーはまた父親に代理結婚に協力するよう頼まれ、これを最後にしようと決め、ウィリアムとともに名ばかりの新郎新婦となる。
挙式の当日、スカイプで本当の新郎新婦と対面すると、戦場の彼と、故郷の彼女は黒人だった。
ふたりは、結婚式でキスができない自分たちに代わってキスをしてほしい、とウィリアムとブライディーに頼む。
いい話だなあ。
こういうラブストーリーに感動できる感性だけは失いたくありませんね、いくつになっても。
(発行:中央公論新社 中公文庫 第1刷:2016年9月25日 定価:720円=税別)
2019読書目録
1『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』村上春樹編訳(2006年/中央公論新社)