中学か高校のころ、ぼくが初めて読んだ乱歩の〝大人向け作品〟である。
乱歩が子供向けに書き改めたポプラ社の〈少年探偵団シリーズ〉を出る端から小遣いで買ったり、学校の図書室で借りたりして読み漁っていた時代のことだ。
この『大暗室』のポプラ社版には、乱歩自身が〈まえがき〉で子供用にかなりの部分を書き直したと書いている。
主役と敵役を原典には登場しない明智小五郎と怪人二十面相に置き換え、最後は二十面相が捕らえられてハッピーエンド、となっているところに、子供心に如何ともし難い食い足りなさを感じた。
そこでこの春陽文庫版を買って読み始めたのだが、いやもう、面白いの何の。
最初から最後までどっぷりと乱歩ワールドに浸った当時の読書体験は筆舌に尽くし難い。
それから約20年後、あの興奮よもう一度と、同じ春陽文庫を購入しながら、それからさらに20年、いまのいままで押入れに突っ込んだままにしていました。
で、実に約40年ぶりに読んでみた感想は…正直、あんまり面白くなかったなあ。
同じタイプの主人公が似たような人外魔境を作り上げる『孤島の鬼』や『パノラマ島奇談』は、舞台が絶海の孤島だからリアリティもあり、それなりに面白く読める。
しかし、昭和初期の東京市の地下に人知れず暗黒のパラダイスが築かれていた、という本作のアイデアは荒唐無稽な印象が先に立ち、『孤島』や『パノラマ島』ほどの耽美な魅力を感じさせない。
それでも、初めて読んだときより面白いと思ったのが、久留須左門の傑作なキャラクター。
大火傷を負い、髑髏同然の顔になって夜の東京を跳梁する彼の姿は、リーアム・ニーソンが演じた『ダークマン』(1990年)をはるかに超えている。
(発行:春陽堂書店 春陽文庫/江戸川乱歩文庫
新装第1刷:1987月12月10日 4刷:1994年4月20日 定価:524円=税別
初出:1936年12月号~38年6月号/〈キング〉)
2018読書目録
24『何者』江戸川乱歩(初出1929年~/東京創元社)
23『湖畔亭事件』江戸川乱歩(初出1926年~/東京創元社)
22『盲獣』江戸川乱歩(初出1931年~/東京創元社)
21『かわいい女・犬を連れた奥さん』アントン・チェーホフ著、小笠原豊樹訳(初出1896年~/新潮社)
20『カラマーゾフの兄弟』フョードル・ドストエフスキー著、原卓也訳(初出1880年/新潮社)
19『マリア・シャラポワ自伝』マリア・シャラポワ著、金井真弓訳(2018年/文藝春秋)
18『スポーツライター』リチャード・フォード (1987年/Switch所収)
17『激ペンです 泣いて笑って2017試合』白取晋(1993年/報知新聞社)
16『激ペンだ! オレは史上最狂の巨人ファン』白取晋(1984年/経済往来社)
15『戦国と宗教』神田千里(2016年/岩波書店)
14『陰謀の日本中世史』呉座勇一(2018年/KADOKAWA)
13『無冠の男 松方弘樹伝』松方弘樹、伊藤彰彦(2015年/講談社)
12『狐狼の血』柚月裕子(2015年/KADOKAWA)
11『流』東山彰良(2015年/講談社)
10『炎と怒り トランプ政権の内幕』フランク・ウォルフ著、関根光宏・藤田美菜子他10人訳(2018年/早川書房)
9『カシタンカ・ねむい 他七篇』アントン・チェーホフ著、神西清訳(初出1887年~/岩波書店)
8『子どもたち・曠野 他十篇』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1888年~/岩波書店)
7『六号病棟・退屈な話 他五編』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1889年~/岩波書店)
6『最強軍団の崩壊』阿部牧郎(1980年/双葉社)
5『女子プロレスラー小畑千代 闘う女の戦後史』秋山訓子(2017年/岩波書店)
4『白鵬伝』朝田武蔵(2018年/文藝春秋)
3『ザナック/ハリウッド最後のタイクーン』レナード・モズレー著、金井美南子訳(1986年/早川書房)
2『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』ダン・アッカーマン著、小林啓倫訳(2017年/白楊社)
1『路(ルウ)』吉田修一(2012年/文藝春秋)