『スリー・ビルボード』(WOWOW)

Three Billboards Outside Ebbing, Missouri

 今年2月1日に日本で公開され、3月4日に日本でも衛星生中継された米アカデミー賞授賞式で主演女優賞と助演男優賞を獲得した映画が、もうWOWOWで見られるようになった。
 有り難いことは有り難いが、これほどテレビ放送が早いと、劇場で見る〝有り難味〟が薄れるような気もする。

 ミズーリ州のエビングという田舎町で、町外れの一軒家に息子とふたりで暮らしている女ミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)が、自分の家に通じる道沿いに立つ3枚の広告板(スリー・ビルボード)に広告を出す。
 赤地に黒、英大文字で書かれた文言は「娘はレイプされて焼き殺された」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」。

 ミルドレッドの娘アンジェラは7カ月前、この広告板の近くで複数の男に強姦され、焼死体となって見つかった。
 その犯人が見つからないことに抗議し、逮捕するよう警察を急かすため、離婚した夫から譲られた車を売り、広告板を所有する会社のレッド・ウィルビー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)に5000ドルを払って広告を打ったのだ。

 しかし、ミルドレッドが糾弾したビル・ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)は人格者として知られ、エビングの町民にも慕われており、逆にミルドレッドが厳しい批判にさらされるようになる。
 とりわけ、マザコンで独身、レイシストとして町内で悪評ふんぷんの巡査ジェイソン・ディクソン(サム・ロックウェル)が激昂、広告会社に乗り込んでウィルビーを殴りつけ、2階の窓から投げ飛ばして重傷を負わせる。

 そうした中、ミルドレッドに会いにやって来たウィロビーは、自分が末期の膵臓癌で、余命いくばくもないことを告白。
 ミルドレッドが「知ってるわ。私だけじゃなく、町中のみんながね」と突き放してからしばらくのち、ウィロビーは誰にとっても意外な行動に出る。

 ここから物語が大きく動き、各キャラクターの考え方や立ち位置がガラリと変わって、独特のカタルシスを感じさせるエンディングへ突き進んでいくシナリオはまことにお見事。
 前半と後半で登場人物たちが攻守所を変え、人間関係の変化や逆転で見せるやり方はよくあるが、ここまで巧妙に伏線を張り巡らせ、得心のいくところに落ち着く傑作は滅多にない。

 役者では2度目の主演女優賞を獲得したマクドーマンドもさりながら、ロックウェルの巧みな好演が印象に残った。
 この秀逸なオリジナル脚本を自ら書き上げた監督マーティン・マクドナーもアカデミー賞級の仕事と評価していい(作品賞、脚本賞にもノミネートされている)。

 オススメ度A。

(2017年 アメリカ=フォックス・サーチライト・ピクチャーズ/日本配給2018年 20世紀FOX 115分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

144『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年/クロックワークス)A
143『牝』(1964年/東映)C
142『あばずれ』(1966年/東映)A
141『審判』(1962年/仏、伊、西独)C
140『残像』(2016年/波)A
139『ある過去の行方』(2013年/伊朗)A
138『別離』(2011年/伊朗)A
137『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年/米)A
136『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017年/英、米)C
135『007 ダイ・アナザー・デイ』(2002年/英、米)B
134『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年/英、米)B
133『007 ゴールデンアイ』(1995年/英、米)A
132『ジオストーム』(2017年/米)C
131『ザ・サークル』(2017年/米)C
130『殺人の告白』(2012年/韓)A
129『日本暗黒街』(1966年/東映)C
128『博徒仁義 盃』(1970年/東映)C
127『ビジランテ』(2017年/東京テアトル)A
126『ジョーカー・ゲーム』(2015年/東宝)C
125『007 消されたライセンス』(1989年/英、米)A
124『007 リビング・デイライツ』(1987年/英、米)B
123『007 オクトパシー』(1983年/英、米)C
122『007 黄金銃を持つ男』(1974年/英、米)C
121『チェンジリング』(2008年/米)A
120『エル ELLE』(2016年/仏、白、独)A
119『女王陛下の007』(1969年/英、米)C
118『007 スペクター』(2015年/英、米)B
117『007 慰めの報酬』(2008年/英、米)C
116『007 カジノ・ロワイヤル』(2006年/英、米)C
115『暴走パニック 大激突』(1976年/東映)C
114『お尋ね者七人』(1966年/東映)B
113『忍者狩り』(1964年/東映)C
112『十兵衛暗殺剣』(1964年/東映)B
111『十三人の刺客』(1963年/東映)B
110『地上最大のショウ』(1952年/米)A
109『スリーピー・ホロウ』(1999年/米)A
108『モネ・ゲーム』(2012年/米)C
107『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(2017年/米)A
106『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』(2016年/米)C
105『ジェイソン・ボーン』(2016年/米)A
104『ボーン・レガシー』(2012年/米)C
103『ハンス・ジマー ライブ・イン・プラハ』(2017年/米)B
102『夕陽の群盗』(1972年/米)B
101『アウトロー』(1976年/米)A
100『スラップ・ショット』(1977年/米)B
99『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017年/東宝)C
98『女囚さそり 701号怨み節』(1973年/東映)B
97『女囚さそり けもの部屋』(1973年/東映)B
96『女囚さそり 第41雑居房』(1972年/東映)B
95『女囚701号 さそり』(1972年/東映)A
94『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』(1961年/東映)C
93『三度目の殺人』(2017年/東宝)C
92『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』(2011年/米)B
91『エイリアン:コヴェナント』(2017年/米)B
90『プロメテウス』(2012年/米)B
89『アンドロメダ… 』(1971年/米)A
88『亡霊怪猫屋敷』(1958年/新東宝)B
87『怪談かさねが渕 』(1957年/新東宝)B
86『一寸法師』(1955年/新東宝)C
85『黒蜥蜴』(1962年/大映)B
84『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者』(1976年/日活)D
83『狼やくざ 葬いは俺が出す』(1972年/東映)B
82『博徒七人』(1966年/東映)A
81『泥棒成金』(1955年/米)A
80『スペース カウボーイ』(2000年/米)C
79『ソイレント・グリーン』(1973年/米)B
78『狼は天使の匂い』(1972年/仏)B
77『さらば友よ』(1968年/仏、伊)B
76『傷だらけの栄光』(1956年/米)A
75『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年/米、巴)B
74『ダンケルク』(2017年/英、米、仏、蘭)B
73『墨攻』(2006年/中、日、香、韓) A
72『関ヶ原』(2017年/東宝)
71『後妻業の女』(2016年/東宝)B
70『ショートウェーブ』(2016年/米)D
69『Uターン』(1997年/米)B
68『ミラーズ・クロッシング』(1990年/米)C
67『シザーハンズ』(1990年/米)A
66『グーニーズ』(1985年/米)B
65『ワンダーウーマン』(2017年/米)B
64『ハクソー・リッジ』(2016年/米)A
63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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