きょうは上野の森美術館で開催中のフェルメール展を見に行ってきました。
先週、この近所の東京都美術館でムンク展を見てきたばかりなので、突然絵画熱に火が点いたかのように思われるかもしれませんが、これはたまたま。
ムンクと同様、フェルメールも以前から興味のある画家で、5年前にはロンドン・トラファルガー広場のナショナル・ギャラリーで作品を見たこともあるのですよ(旧サイト:013年9月6日付Blogより)。
ただ、あの美術館は作品点数が多過ぎ、初めて本物を見たセザンヌ、スーラー、レンブラント、ゴッホなどのほうが印象に残っていて、フェルメールの『ヴァージナルの前に立つ女』、『ヴァージナルの前に座る女』は残念ながらぼんやりとしか覚えていない。
そういう悔恨もあり、いつかまたフェルメールを目に焼き付ける機会がないものかと、ずっと考えていたのです。
世界中に現存する作品が僅か35点で、今回はそのうち9点が来日している、と書くと大変ささやかな展覧会のようだけど、日本ではこれでも史上最大規模。
今回の目玉はフェルメールの最高傑作と言われ、〝代名詞〟の一つにも数えられている『牛乳を注ぐ女』。
手首から先が日焼けしたメイドの女性の肌の質感、鉢に注がれる牛乳の音と匂い、左側の窓から差し込む陽光の温かさまで感じられそうでした。
しかし、私が最も惹きつけられたのは、その2点手前に展示されていた『手紙を書く婦人と召使い』。
やはり左側の窓から日が差す部屋、手前で手紙を書いている婦人の後ろに立ち、窓外に目をやっているメイドの眼差しが何とも意味深で、様々な想像を掻き立てられる。
婦人はこの手紙を書き終えたらメイドに渡し、郵便配達夫に預けさせるか、手紙を宛てた相手に直接届けさせるのだろう。
とすると、その相手は婦人の恋人と推測されるが、腕組をしたメイドのポーズからすると、この仕事を歓迎していないようにも見え、ひょっとすると不義密通の相手かもしれないという邪推も可能です。
壁にかかった絵が旧約聖書の一場面『モーセの発見』であることは、音声解説とガイドブックで初めて知りました。
手紙を書いている人物の背後に絵がかかっている、という構図は、このフェルメール展に合わせて来日した同時代のオランダ人画家ハブリエル・メツーの『手紙を書く男』にも見られ、当時の流行だったのかもしれない。
『手紙を書く婦人と召使い』は、ロンドンの第2代準男爵アルフレッド・バイトが所有していた当時、2度も盗難に遭ったことでも有名。
最初は1974年にIRAの武装メンバーに盗まれるも8日後に発見、次は1986年にアイリッシュ・マフィアの「将軍」と呼ばれたマーティン・カーヒルに強奪され、スコットランド・ヤードが7年後に奪い返した。
この捜査の顛末はイギリスでノンフィクション作品になり、我が国でもNHK『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』の1本「フェルメール盗難事件 史上最大の奪還作戦」で放送された。
盗賊から2度の〝生還〟を果たした17世紀の名画、というのもほかに例がないのではないだろうか。
フェルメール以外のオランダの画家の作品も多数展示されており、レンブラント周辺の画家『洗礼者ヨハネの斬首』、ヤン・デ・ブライ『ユーディトとホロフェルネス』、ヘラルト・ダウ『本を読む老女』がとりわけ素晴らしい。
写生ではなく想像力で描かれたという海をモチーフとした風景画、コルネリス・ファン・ウィーリンヘン『港町近くの武装商船と船舶』、アブラハム・ストルク『捕鯨をするオランダ船』も印象に残りました。