『ボヘミアン・ラプソディ』(DOLBY ATMOS)

Bohemian Rhapsody

 最近流行の1970~80年代に一世を風靡した人物の伝記映画。
 今年9月に公開されたテニスの『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』(2017年)に続いて、今度はロックバンド〈クイーン〉のリードボーカル、フレディー・マーキュリーとメンバー3人の物語である。

 ぼくも高校時代にはクイーンにハマっていた時期があり、「キラー・クイーン」、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、「ドント・ストップ・ミー・ナウ」など、いくつかのヒット曲はいまでもサビの部分を口ずさむことができる。
 一番好きだったのは、裸の女の子にロードバイクで競走させるビデオとピンナップが製作された「バイシクル・レース」で、あのセンスのよさ、あっけらかんとしたエロティシズム(というよりいっそバカバカしさ)が大好きだった。

 ただ、同じころによく聴いていたブルース・スプリングスティーンとEストリート・バンドとは違い、クイーンのメンバーに人間的な興味を覚えたりはしていない。
 フレディのいかにもゲイ的なコスチューム、ブライアン・メイの独特なヘアスタイルが印象に残っているぐらいで、彼らがどのような人生を生きてきたのか、どういう性格の持ち主なのか、思想や信条はあるのか、まるで知らなかった。

 従って、リーダーのフレディ(ラミ・マレック)が実はイギリス人ではなく、本名はファルーク・バルサラといい、ペルシャ系インド人の両親の間に生まれた移民の子供であるということも、この映画を見て初めて知った。
 少年時代には空港の荷役として働き、先輩たちに「パキ・ボーイ」(パキスタンのガキ)と呼ばれ、過剰歯で反っ歯の顔をからかわれていたが、そのぶん口が大きく開くため、声量に自信を持っていたという。

 そんなファルークは彼を苦労して育てた厳格な父親に向かって、「あんたの言うことを聞いて何かいいことがあったか」と噛み付いてフレディと改名。
 持ち前の声と音楽的才能を生かし、自ら売り込んでメイ(グウィリム・リー)とロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)のバンド〈スマイル〉に参加する。

 やがてフレディの発案でバンド名をクイーンに変更し、ヒット曲を連発して一躍スターとなってゆく一方、フレディ自身はメアリー・オースティン(ルーシー・ボイントン)と婚約。
 ところが、マネージャーのポール・プレンター(アレン・リーチ)にキスされて同性愛指向に目覚め、メアリーに「どこか変よ」と言われたころから人生の歯車が狂い始める。

 この映画を見る限り、フレディは当初、自分をバイセクシャルだと考えていたところ、メアリーに「あなたはゲイよ」と指摘されて自分の性的嗜好に気づいたことになっている。
 このあたりは、自身もゲイであることをカミングアウトしており、「女性と付き合いながら男性へ傾斜していった」と言う監督ブライアン・シンガーの経験と同性愛観が反映されているようだ。

 実在のフレディ自身は、エイズによる肺炎で1991年に45歳で死ぬまで、ゲイだったことを自ら告白してはいない。
 それにもかかわらず、晩年は自宅に様々な世代のゲイを招いてはパーティーを開き、ドラッグとアルコールに溺れていた姿が詳しく描き込まれている。

 いくら当時から公然の秘密だったとはいえ、よく遺族が承諾したものだと思う。
 日本ではまだまだこうはいかないだろう。

 そんな荒れた生活を送っていた最中、フレディはメアリーの忠告によって真実に目覚め、ポールを解雇。
 喧嘩別れしていたメンバー3人とクイーンを再結成し、1985年、ライブ・エイドが行われているウェンブリー・スタジアムのステージに立つ。

 この展開はいかにもメロドラマ的で、もっと複雑だったはずのフレディの個性が類型化され、メンバーとの関係もいささか単純化され過ぎているように見える。
 フレディの私生活をここまで赤裸々に暴くのであれば、クイーンの内輪揉めの実態についてももっと突っ込んだ描写がほしかったところだ。

 とはいえ、クイーンが「ボヘミアン・ラプソディ」、「RADIO GA GA」、「ハマー・トゥ・フォール」、「伝説のチャンピオン」と代表曲の4曲を熱演するラスト21分は圧巻。
 フレディに扮したマレックは実物よりも目が大きく、反っ歯が誇張されており、最初はあまり似ているように見えないが、クライマックスでフレディそのものを彷彿とさせるパフォーマンスを披露している。

 マレックはエジプトからの移民で、エンターテイナーを志した若いころ、フレディと同様に両親に猛反対され、罪の意識を覚えた経験があるという。
 そういう自分の過去とルーツが、もともとはインド人だったフレディを演じるに当たり、ある程度は役に立ったのではないか、というマレック自身の分析はなかなか興味深い(パンフレットより)。

 恋人で親友だったメアリー役のボイントン、クイーンのほかのメンバーを演じたリーら3人もそれぞれ好演。
 脇を固めるプロデューサー役のマイク・マイヤーズ、弁護士に扮したトム・ホランダーもいい味を出している。

 採点80点。

(2018年 イギリス、アメリカ=20世紀FOX 2018年 134分)

TOHOシネマズ日比谷、新宿、六本木、新宿バルト9などで公開中

※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

2018劇場公開映画鑑賞リスト
7『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』(2017年/瑞、丁、芬)70点
6『ザ・シークレットマン』(2017年/米)80点
5『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(2017年/米)75点
4『万引き家族』(2018年/ギャガ)85点
3『カメラを止めるな!』(2017年/ENBUゼミナール、アスミック・エース)90点
2『孤狼の血』(2018年/東映)75点
1『グレイテスト・ショーマン』(2017年/米)90点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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