『エル ELLE』(WOWOW)

Elle

 映画を選ぶ独特のセンスに定評のあるWOWOWの人気番組〈W座からの招待〉で放送された作品。
 その放送終了後、MC兼解説者の脚本家・小山薫堂さんがこんなことを言っていた。

「こんなふうに生きてみたいというか、あっ、もっと好きなように生きていいんだと、見ていてそう思いましたよ。
 人生、一度きりしかないんだからって」

 舞台は現代のパリ。
 開巻、いきなりヒロインのイザベル・ユペールが自宅のリビングでレイプされている場面から映画は始まる。

 監督はハリウッドで『ロボコップ』(1987年)、『氷の微笑』(1992年)、『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)、『インビジブル』(2000年)などを撮り、一風変わった暴力とエロティシズムの表現で勇名を馳せ、マニアックなファンを獲得したポール・バーホーベン。
 このレイプシーンからどう物語が発展するのかとワクワクしながら見ていたら、ユペールは犯されたあと、泣くでも悔しがるでもなく、妙に淡々としていて、デリバリーの寿司屋に電話をかけ、ハマチの握りや「ホリデー巻き」(中身のネタは不明)を注文したりしている。

 その翌日、ユペールが出社したのはゲームソフト会社のオフィスで、社長の彼女はRPGのセックス動画をチェックし、「もっとオルガスムスを感じさせる場面にしなさい!」などと、自分の息子ほども若いスタッフに命じている。
 そんな上から目線の態度や言い方に反発している社員も多く、犯される女にユペールの顔写真を貼りつけた動画が社内のPCにばらまかれる、という事件が発生。

 しかし、ユペールはこの〝セクハラ〟にもまったく動じず、同じ会社の役員クリスチャン・ベルケルと不倫の関係を続けていて、その気になったら社長室のブラインドを下ろしてセックスに耽ったりする。
 それだけでなく、ロベールの妻アンナ・コンシニともレズビアンの関係を持ったり、セックス動画の犯人が若い男性社員だとわかると、社長室で「オチンチンを出しなさい」と迫ったりと、まさに小山薫堂氏の言う通り「やりたい放題」。

 こうした女性像を当たり前のように演じ、ヌードも披露しているユペールは本作の製作当時、すでに63歳。
 驚くというよりあきれるのは、ユペールの母親ジュディット・マールにも孫のような恋人がいるという設定で、この女優はなんと89歳(現在91歳!)だった。

 この親子をはじめ、この映画の登場人物は〝性的タブー〟を一向に意識していない人間ばかり。
 そんなあまりに特異な、というよりぶっ飛んだ設定に加え、物語が進むにつれ、かつてユペールの父親が犯したおぞましい犯罪や冒頭のレイプ犯の正体が明らかになる、という構成も見事で、最後までグイグイ引っ張られる。

 小山氏も指摘していたように、この映画が成功した最大の要因は、常識的に捉えればとんでもない〝エロババア〟でしかないヒロインをごく自然に演じているユペールの個性と演技力にある。
 バーホーベンは当初、アメリカ人女優にこの役を演じてもらいたいと思い、ニコール・キッドマン、シャロン・ストーン、ジュリアン・ムーア、シャーリーズ・セロンなどにオファーを出したが、そろって尻込みされたそうだ。

 しかし、こういう女性像はやはり、フランス人女性にしか演じられないのではないか。
 痛快なような、人を食ったような、それでいてエロいオチを見ていて、この味はハリウッドのセレブ女優には出せないだろうなあ、と思った。

 見終わったあと、大人の男と女なら、ヤレるときにヤッておかないとなあ、と今更ながらに痛感するはず。
 ちなみに、カンヌ映画祭では上映終了後、スタンディング・オベーションが実に7分以上も続いたそうです。

 オススメ度A。

(2016年 フランス、ベルギー、ドイツ/日本配給2017年 ギャガ 130分 PG12)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

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118『007 スペクター』(2015年/英、米)B
117『007 慰めの報酬』(2008年/英、米)C
116『007 カジノ・ロワイヤル』(2006年/英、米)C
115『暴走パニック 大激突』(1976年/東映)C
114『お尋ね者七人』(1966年/東映)B
113『忍者狩り』(1964年/東映)C
112『十兵衛暗殺剣』(1964年/東映)B
111『十三人の刺客』(1963年/東映)B
110『地上最大のショウ』(1952年/米)A
109『スリーピー・ホロウ』(1999年/米)A
108『モネ・ゲーム』(2012年/米)C
107『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(2017年/米)A
106『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』(2016年/米)C
105『ジェイソン・ボーン』(2016年/米)A
104『ボーン・レガシー』(2012年/米)C
103『ハンス・ジマー ライブ・イン・プラハ』(2017年/米)B
102『夕陽の群盗』(1972年/米)B
101『アウトロー』(1976年/米)A
100『スラップ・ショット』(1977年/米)B
99『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017年/東宝)C
98『女囚さそり 701号怨み節』(1973年/東映)B
97『女囚さそり けもの部屋』(1973年/東映)B
96『女囚さそり 第41雑居房』(1972年/東映)B
95『女囚701号 さそり』(1972年/東映)A
94『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』(1961年/東映)C
93『三度目の殺人』(2017年/東宝)C
92『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』(2011年/米)B
91『エイリアン:コヴェナント』(2017年/米)B
90『プロメテウス』(2012年/米)B
89『アンドロメダ… 』(1971年/米)A
88『亡霊怪猫屋敷』(1958年/新東宝)B
87『怪談かさねが渕 』(1957年/新東宝)B
86『一寸法師』(1955年/新東宝)C
85『黒蜥蜴』(1962年/大映)B
84『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者』(1976年/日活)D
83『狼やくざ 葬いは俺が出す』(1972年/東映)B
82『博徒七人』(1966年/東映)A
81『泥棒成金』(1955年/米)A
80『スペース カウボーイ』(2000年/米)C
79『ソイレント・グリーン』(1973年/米)B
78『狼は天使の匂い』(1972年/仏)B
77『さらば友よ』(1968年/仏、伊)B
76『傷だらけの栄光』(1956年/米)A
75『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年/米、巴)B
74『ダンケルク』(2017年/英、米、仏、蘭)B
73『墨攻』(2006年/中、日、香、韓) A
72『関ヶ原』(2017年/東宝)
71『後妻業の女』(2016年/東宝)B
70『ショートウェーブ』(2016年/米)D
69『Uターン』(1997年/米)B
68『ミラーズ・クロッシング』(1990年/米)C
67『シザーハンズ』(1990年/米)A
66『グーニーズ』(1985年/米)B
65『ワンダーウーマン』(2017年/米)B
64『ハクソー・リッジ』(2016年/米)A
63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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