Братья Карамазовы
2006年にフリーになってからしばらく、暇だったこともあり、勉強のつもりで古典文学ばかり読んでいた時期がある。
とりわけフランスの自然主義文学は現代でも学ぶべきところが多く、フローベール『ボヴァリー夫人』、ゾラ『居酒屋』、モーパッサン『女の一生」などは、自分がスポーツ・ノンフィクションを書く上でも大きなプラスになった。
ただし、教養を身につけるのには役に立つけれども、一読者としての趣味には合わず、従って実作上もほとんど影響を受けなかった古典も、当然ながらある。
文学史上重要な作品であることは理解できても、自分自身の文学観、創作観とは別の次元に存在しているという感覚が先に立って、最後まで感情移入できず、作品世界にのめり込むこともない。
私にとって、この『カラマーゾフの兄弟』はそういう意味で、読み通すのが非常にしんどかった作品である。
この感想は『罪と罰』を読んだときとほとんど変わらない。
ドストエフスキーの何が作品世界への没入を妨げているのかと言えば、文章の単調さ、もっとはっきり指摘すると、登場人物の長台詞がほとんどすべて同じトーン、同じ長さ、同じテンションの高さで書かれていることにある。
とにかく、ドミートリイ、イワン、アリョーシャらカラマーゾフ兄弟をはじめ、カテリーナやグルーシェンカら女性陣も、スメルジャコフやグリゴーリイら召使いたちも、コーリャやラキーチンらアリョーシャの友人たちも、いったん口を開くと誰も彼も演説口調になり、口角泡飛ばして(いるとしか思えないほど)2ページも3ページも延々としゃべり続ける。
とりわけ第1部のゾシマ長老の回想、第2部のイワンの独白(『大審問官』)が長く、しかもある種のトランス状態で延々と続くものだから、一気に読んだら頭がクラクラしたほど。
それだけズシリと腹にこたえるものがあったことも確かで、イワンの長台詞が当時から大変高く評価され、文学史上非常に重要な意味を持っていることも、余計な解説など読まなくても理解できる、というか、この言葉の圧倒的な洪水と迫力によって否応なしに理解させられる。
ただし、出てくる人間が誰も彼もこれほど饒舌に過ぎるのは、私にとってはリアリティに乏しい、と言わざるを得ない。
ドストエフスキーもスメルジャコフと同様、癲癇持ちであったことはよく知られているが、その他の登場人物もドストエフスキーの様々な面から派生し、切り取られて成立しているキャラクターのようにしか見えない、つまり全員がひとりの人間にしか見えないのだ。
なお、これはあくまで個人的な読み方を明け透けに書いた駄文に過ぎず、内容や文学的価値とは何ら関係ありません。
ああ、疲れた。
(発行:新潮社 新潮文庫 翻訳:原卓也
上巻 1刷:1978年7月20日 54刷改版:2004年1月20日 88刷:2016年6月25日 定価:840円=税別
中巻 1刷:1978年7月20日 47刷改版:2004年1月20日 77刷:2016年1月25日 定価:790円=税別
下巻 1刷:1978年7月20日 48刷改版:2004年1月20日 77刷:2016年1月25日 定価:840円=税別
原著刊行:1880年)
2018読書目録
19『マリア・シャラポワ自伝』マリア・シャラポワ著、金井真弓訳(2018年/文藝春秋)
18『スポーツライター』リチャード・フォード (1987年/Switch所収)
17『激ペンです 泣いて笑って2017試合』白取晋(1993年/報知新聞社)
16『激ペンだ! オレは史上最狂の巨人ファン』白取晋(1984年/経済往来社)
15『戦国と宗教』神田千里(2016年/岩波書店)
14『陰謀の日本中世史』呉座勇一(2018年/KADOKAWA)
13『無冠の男 松方弘樹伝』松方弘樹、伊藤彰彦(2015年/講談社)
12『狐狼の血』柚月裕子(2015年/KADOKAWA)
11『流』東山彰良(2015年/講談社)
10『炎と怒り トランプ政権の内幕』フランク・ウォルフ著、関根光宏・藤田美菜子他10人訳(2018年/早川書房)
9『カシタンカ・ねむい 他七篇』アントン・チェーホフ著、神西清訳(初出1887年~/岩波書店)
8『子どもたち・曠野 他十篇』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1888年~/岩波書店)
7『六号病棟・退屈な話 他五編』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1889年~/岩波書店)
6『最強軍団の崩壊』阿部牧郎(1980年/双葉社)
5『女子プロレスラー小畑千代 闘う女の戦後史』秋山訓子(2017年/岩波書店)
4『白鵬伝』朝田武蔵(2018年/文藝春秋)
3『ザナック/ハリウッド最後のタイクーン』レナード・モズレー著、金井美南子訳(1986年/早川書房)
2『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』ダン・アッカーマン著、小林啓倫訳(2017年/白楊社)
1『路(ルウ)』吉田修一(2012年/文藝春秋)