梶芽衣子がブレークした映画で、現在もカルト的人気を誇る東映の女刑務所シリーズ第1作。
いまでは、タランティーノが『キル・ビル』(2003年)の元ネタにした映画、といったほうが通りがいいだろう。
監督は、これが第1作となった鬼才・伊藤俊也。
ぼくとしては萩原健一主演の『誘拐報道』(1982年)を監督した社会派という印象が強く、この『さそり』シリーズ第1作も同じような色合の強いアクション映画かと思っていた。
しかし、いざ見てみたら、伊藤が独自の様式美を前面に押し出した作品で、アクションというよりもいっそファンタジーといったほうがいいほど。
いつもの波しぶきと東映のロゴマークに、なんと国歌君が代がかぶさるという出だしからしていかにも前衛的。
国旗のモチーフは、処女だったヒロイン・松島ナミ=さそり(梶)が恋人の夏八木勲に抱かれる場面でも使われ、大胆にも破瓜の血がシーツに滲むところを日の丸にダブらせている。
梶が刑事の夏八木に利用されて犯罪を犯し、逮捕されて刑務所に収容されるまでが、極彩色のバックを使ったり、アクリル板の下からうつ伏せになった半裸の梶を撮ったりと、鈴木清順の手法を思わせる幻想的(というより悪夢のよう)なタッチで描かれる。
主な舞台となる女刑務所では、女囚たち全員が横縞のワンピースみたいな囚人服を着せられ、採石場のようなところで強制労働に従事させられている。
刑務所にもかかわらず厚化粧の女囚が多く、美容院に行ってきたばかりのようなパーマヘアまでいるのがおかしい。
何度も脱獄を繰り返しては看守のリンチに遭い、懲罰房にぶち込まれるさそりの梶も、ずっとサラサラのロングヘアにきれいな顔のまま。
冷静に見ていたらバカバカしくなる、と頭ではわかっていても、どんどん引き込まれてしまうのは、やはりこの梶の演技と存在感に負うところが大きい。
中盤の女囚たちによる内輪揉めや暴動騒ぎはそれほど面白くなかったが、さそりが様々なリンチや屈辱を耐え忍び、脱獄に成功したあかつきのリベンジは見どころたっぷり。
とりわけ、見事に夏八木を仕留めるクライマックスは、作り物めいていながら、なかなかのカタルシスを感じさせる。
最初から最後までほとんどしゃべらないさそりのキャラクターは梶自身の発案によるものだという。
自分の演技と雰囲気によっぽど自信がなければ、こんな突飛なアイデアは出せないだろう。
監督の伊藤さんには、萩原健一著『ショーケン』(2007年/講談社)の構成の仕事をしていたころ、取材に協力していただいたことがある。
いま思えば、そのときに本作も見ておいて、撮影裏話をいろいろと聞いておけばよかった。
なお、東映映画の大好きな先輩のスポーツ紙記者によれば、梶が珍しく乳房とセミヌードを見せるのは本作だけ。
「おれが若いころは、あのオッパイをかぶりつくようにして見ていたもんだ」と、横浜スタジアムの三塁側ベンチ前で熱く語っておられました。
オススメ度A。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
94『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』(1961年/東映)C
93『三度目の殺人』(2017年/東宝)C
92『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』(2011年/米)B
91『エイリアン:コヴェナント』(2017年/米)B
90『プロメテウス』(2012年/米)B
89『アンドロメダ… 』(1971年/米)A
88『亡霊怪猫屋敷』(1958年/新東宝)B
87『怪談かさねが渕 』(1957年/新東宝)B
86『一寸法師』(1955年/新東宝)C
85『黒蜥蜴』(1962年/大映)B
84『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者』(1976年/日活)D
83『狼やくざ 葬いは俺が出す』(1972年/東映)B
82『博徒七人』(1966年/東映)A
81『泥棒成金』(1955年/米)A
80『スペース カウボーイ』(2000年/米)C
79『ソイレント・グリーン』(1973年/米)B
78『狼は天使の匂い』(1972年/仏)B
77『さらば友よ』(1968年/仏、伊)B
76『傷だらけの栄光』(1956年/米)A
75『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年/米、巴)B
74『ダンケルク』(2017年/英、米、仏、蘭)B
73『墨攻』(2006年/中、日、香、韓) A
72『関ヶ原』(2017年/東宝)
71『後妻業の女』(2016年/東宝)B
70『ショートウェーブ』(2016年/米)D
69『Uターン』(1997年/米)B
68『ミラーズ・クロッシング』(1990年/米)C
67『シザーハンズ』(1990年/米)A
66『グーニーズ』(1985年/米)B
65『ワンダーウーマン』(2017年/米)B
64『ハクソー・リッジ』(2016年/米)A
63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A