『博徒七人』(TOEIch)

 わーっ! 見たよ見ました、やっと見た!
 こんな映画小僧ならではの興奮を味わったのはいつ以来か、あまりに久々なのでちょっと思い出せないほど。

 今月、何年かぶりにスカパー!の東映チャンネルと契約したのは、一にも二にもこの映画を見るためだった。
 脚本を書いた笠原和夫の著書『破滅の美学 ヤクザ映画への鎮魂曲(レクイエム)』(1997年/幻冬社アウトロー文庫)で本作の存在を知ってから約20年、やっと念願が叶いました。

 タイトルからもわかる通り、本作は『七人の侍』(1954年)の東映流翻案企画で、オリジナルの侍を博奕打ちに置き換えているのだが、それだけでなく、さらに七人全員を身体障害者にしているところがすごい。
 この空前絶後の内容に加え、差別的セリフが頻出することがネックとなり、ビデオソフト化されないまま、ごくたまにアートシアター系の小劇場でかけられるか、この東映チャンネルで放送されるのを待つしかないカルト作品と化している。

 主役の鶴田浩二が片目で匕首の達人、相棒の藤山寛美は片腕のガンマン、山本麟一は片足の空手家、その連れの待田京介は盲で吹き針の使い手、小松方正は傴僂で砕石用の釘が武器、山城新伍は聾唖で分銅付きの鎖を使い、大木実はケロイド顔の剣豪、という設定。
 さらに、鶴田が東京弁、寛美が大阪弁なのは当然として、山本に名古屋弁、待田に博多弁をしゃべらせているあたり、いつもながら笠原の芸は細かい。

 もっとも、前記『破滅の美学』、『昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫』(2002年/太田出版)によれば、これはたったの3日で脚本を書き上げなければならなかった事情による苦肉の策でもあったという。
 当時、笠原は『七人の侍』のヤクザ版を書くよう社命を受け、大正時代の神戸港改修工事にからみ、播州灘家島の石切場で発生した騒動を素材にした一篇を書き上げた

 ところが、あまりに重苦しい内容だったため、監督の小沢茂弘が「こんな暗いホンで撮れるか」とクソミソに批判。
 この小沢の言い方に激昂し、自ら原稿をビリビリに破いて見せた笠原の剣幕に、当時飛ぶ鳥落とす勢いだった小沢も仰天、頭を下げて書き直しを懇願したものの、もはやクランクインまで3日しかない。

 そこで、キャラクターの描き分けに窮した笠原は、半ばヤケクソで七人全員を「どこかが不自由な人」にしてしまった。
 …という笠原自身による裏話はあまりにも面白過ぎ、どこまで本当かわからないが、おかげで映画史上ほかに類例を見ない破天荒な珍作にして怪作が出来上がった。

 当然ながら、撮るほうも演るほうもコメディータッチを意識しているのだが、それでもクソ真面目にやっているところに、どんな映画にも例え難い可笑しみが漂う。
 敵役の金子信雄、酔いどれ医師の西村晃、珍しく(というより本作以外に見たことがない)貧しい善良な一般人を演じている遠藤太津朗など、脇役陣も見どころたっぷり。

 オススメ度A。

(1966年 東映 92分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

81『泥棒成金』(1955年/米)A
80『スペース カウボーイ』(2000年/米)C
79『ソイレント・グリーン』(1973年/米)B
78『狼は天使の匂い』(1972年/仏)B
77『さらば友よ』(1968年/仏、伊)B
76『傷だらけの栄光』(1956年/米)A
75『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年/米、巴)B
74『ダンケルク』(2017年/英、米、仏、蘭)B
73『墨攻』(2006年/中、日、香、韓) A
72『関ヶ原』(2017年/東宝)
71『後妻業の女』(2016年/東宝)B
70『ショートウェーブ』(2016年/米)D
69『Uターン』(1997年/米)B
68『ミラーズ・クロッシング』(1990年/米)C
67『シザーハンズ』(1990年/米)A
66『グーニーズ』(1985年/米)B
65『ワンダーウーマン』(2017年/米)B
64『ハクソー・リッジ』(2016年/米)A
63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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