『狼は天使の匂い』(セルDVD)😉

La Course du Lièvre à Travers les Champs
141分 1972年 フランス 

前項『さらば友よ』(1968年)と同様、本作も中学か高校生のころ、テレビで見て脳裏に焼き付けられた一篇。
脚本も同じセバスチャン・ジャプリゾで、フランスの名匠ルネ・クレマンが監督を務めている。

エンディングの間際、バンガローのようなアジトに立てこもったジャン=ルイ・トランティニャンとロバート・ライアンが、ビー玉を2個ずつ賭けながら、警官隊に向かってライフルを撃ち続ける。
あのえも言われぬ情感、ノスタルジックでファンタジックな雰囲気が忘れられなかった。

再見を願っていた学生時代、脚本を書いたセバスチャン・ジャプリゾによるノベライゼーション『ウサギは野を駆ける』(早川書房、ハヤカワ・ミステリ/1984年)を本屋で発見、貪るように読んだ覚えもある。
が、肝心の映画はもう一度見たくても度々再放送されるような名作ではなく、広島はもちろん東京の名画座にかかることなど望むべくもない。

数年前にブルーレイの完全版が発売されたものの、初期価格が5000円超。
貧乏ライターとしては買うのを躊躇っていたところ、最近になって1000円弱の廉価版DVDが出た(やったー!)。

で、改めてじっくりと再見して驚かされたのは、141分という上映時間の長さである。
劇場公開版は122分、テレビ放映版は90分だから、昔はオリジナルより実に50分以上も短縮されたバージョンを見ていたことになる。

だからといって印象は変わらず、むしろかつての雰囲気そのままで、しんみりと感動できたのがうれしい。
ただし、いささか冗長に感じたのも確かである。

開巻、パリの下町で遊ぶ子供たちの輪の中に、新参者らしい少年が入っていき、手にしていたビー玉を落としてしまう。
このビー玉が石畳に散らばった直後、少年が成長した姿らしいトランティニャンが現れ、彼がストリートギャングのような若者たちから逃げ続けている描写から本篇がスタート。

トランティニャンはもともとカメラマンで、軽飛行機に乗って浜辺に集った人々を撮影していた最中、誤って飛行機を墜落させ、子供たちを死なせてしまった。
以来、その浜辺にいた若者たちに命を狙われるようになった、という過去が見ているうちにわかってくる。

若者たちはマフィアではなく、ロマかジプシーのようだが、クレマンもジャプリゾも詳しい説明は省略している。
トランティニャンが事故を起こしたのはフランスで、カナダまで逃げてきており、若者たちはそこまで執拗に追い続けているのだが、なぜこれほど執念深いのかもよくわからない。

トランティニャンは逃げ込んだ植物園でギャングの殺人現場を目撃し、彼らに捕らえられて湖畔に建つバンガローのようなアジトに連れていかれる。
そこに潜んでいたロバート・ライアン率いるギャングの一味はまるで擬似家族のようで、トランティニャンはライアンに可愛がられ、ライアンの情婦レア・マッサリと惹かれ合うようになる。

こうしてトランティニャンはライアンの一味に加わり、大物ギャングの裁判の証人になる少女の誘拐計画に加わる。
消防車のはしご車を使ったこの犯行はなかなか大がかりだが、映画全体の雰囲気に合っておらず、今日ではいかにもチャチに見える合成画面が多いのも残念。

結局、犯行は失敗に終わり、冒頭に書いたエンディングへとつながってゆく。
トランティニャンとライアンが死んでしまうのか、はっきりと説明しないままに、映画はまたビー玉で遊んでいた子供たちを映し出して終わる。

まるで、すべてはギャングやアクション映画に憧れる少年が夢見ていた幻想の世界だったかのように。
この独特の余韻だけは昔と同じだった。

劇場公開当時は、もっとシリアスなフランス製クライム・サスペンスを期待して、肩透かしに遭ったように感じた批評家が少なくなかったらしい。
実際、双葉十三郎氏も〈スクリーン〉の連載で「クレマンも切れ味が鈍った」(『ぼくの採点表Ⅲ/1970年代』1989年/トパーズプレス所収)などと評している。

しかし、本作はあくまでも雰囲気で見せる映画であり、サスペンスよりはファンタジーの範疇に属する映画なのだ。
オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

77『さらば友よ』(1968年/仏、伊)B
76『傷だらけの栄光』(1956年/米)A
75『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年/米、巴)B
74『ダンケルク』(2017年/英、米、仏、蘭)B
73『墨攻』(2006年/中、日、香、韓) A
72『関ヶ原』(2017年/東宝)
71『後妻業の女』(2016年/東宝)B
70『ショートウェーブ』(2016年/米)D
69『Uターン』(1997年/米)B
68『ミラーズ・クロッシング』(1990年/米)C
67『シザーハンズ』(1990年/米)A
66『グーニーズ』(1985年/米)B
65『ワンダーウーマン』(2017年/米)B
64『ハクソー・リッジ』(2016年/米)A
63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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