『さらば友よ』(セルDVD)

Adieu l’ami

 ぼくと同世代の映画ファンなら、子供のころに一度はテレビで本作の日本語吹替版を見たことがあるはずだ。
 ただ、そのころのぼくはこの映画を見るには幼過ぎたのか、いろいろとわからないことが多く、見終わってからしばらくは頭の中が「?」マークでいっぱいになってしまった。

 いつか再見したいと思っていたものの、WOWOWやNHK衛星放送ではなかなか放送してくれず、レンタルビデオ店に常備されているような作品でもなく、DVDやブルーレイは5000円台といささか高い。
 今回、ネットで2000円台のバージョンを見つけてやっと購入する踏ん切りがついた(ケチ臭くてすみません)。

 まず、子供のころにわからなかったのは、ドロンとブロンソンの〝本当の関係〟である。
 ふたりがどちらもアルジェリア戦争帰りの戦友同士でありながら、最初のうちはそれほど仲がよくなかった、ということはこのDVDを見て初めてわかった。

 ともにマルセイユの港へ帰り着くと、ドロンが若い女オルガ・ジョルジュ=ピコと話し込んでいるところを見たブロンソンは、しきりとドロンにつきまとうようになる。
 ピコはかつてドロンの戦友だった軍医モザールの恋人で、その軍医がいつまでもアルジェから帰ってこないから、代わりにドロンにやってほしいことがある、と相談していた。

 この頼み事というのがまたややこしく、子供のころによく呑み込めなかった要素のひとつ。
 ピコが言うには、自分が勤務する広告会社の金庫から社債を勝手に持ち出して金儲けをしていたが、年末の決算が近づいてきたので、その債権を秘かに金庫へ返さなければならない。

 金庫は会社の医務室の隣にあり、ピコの恋人モザールはもともと医務室に勤務する医者だったから、彼に社債を金庫へ戻すように頼もうと思っていたところ、戦地から帰ってこないので困っている。
 そこで、同じ医者のドロンに会社の医務室に勤務してもらえるように手配するから、勤務中に秘かに金庫へ社債を返してくほしい、というのだ。

 その金庫にはクリスマス・イヴの夜、従業員の給料とボーナス2億フランが運び込まれることになっており、ドロンはことのついでに現金をいただいてしまおうと計画。
 そこへブロンソンが首を突っ込んできて、ふたりで金庫破りをすることになったその夜、計画の手違いで金庫のある部屋に閉じ込められてしまった。

 かくして、ドロンとブロンソンは三日三晩、ほとんど徹夜で金庫を開けようと悪戦苦闘。
 この間に、ドロンがブロンソンにこの計画の裏側にあるモザールとの関係を打ち明けたり、些細なことから口論となっていがみ合ったり、しまいにはふたりとも上半身裸になって殴り合ったり。

 という具合に、〝男の友情〟が育まれてゆく過程が本作の最大の見世場で、昔のフランス映画ならではのウィットに富んだ会話劇によってじっくりと描き込まれている。
 いや、この趣向は子供にはなかなかわかりませんね。

 こうしてようやく金庫を開けることに成功したら、現金はなく空っぽで、ドロンが医務室に戻ってきたら、そこには警備員の死体が転がっていた。
 事ここに至って、ピコにハメられたことにドロンは気づく。

 現場から逃亡する最中、ブロンソンはドロンを助けるため、非常線が張られた空港で警察の追跡を妨害。
 自ら逮捕されたブロンソンは警部ベルナール・フレッソンに厳しい取調を受けるが、のらりくらりとかわして口を割ろうとしない。

 この過程でフレッソンがドロンとブロンソンの友情に理解を示すようになる、というのが本作の第2の見世場。
 これも大人になってからわかった味とニュアンスで、子供のころは意地でもブロンソンを自白させようとしている鬼刑事という印象のほうが強かった。

 ラスト、ドロンがブロンソンのタバコに火を点けてやる有名なシーンでは、ふたりを食い入るように見つめるフレッソンも実にいい表情をしている。
 エスプリに満ち、ヒネリもあって、どこかホンワカした独特の雰囲気を漂わせる脚本は、これまでにも小欄で『O嬢の物語』(1975年)、『殺意の夏』(1983年)を取り上げたセバスチャン・ジャプリゾ。

 ただ、ドロンとブロンソンをハメたピコたち悪女グループの最期がいかにもあっけなく、余韻を残すようにもう一工夫して欲しかったところ。
 と、大人になったらなったで、無理な注文をつけてみたくなったりして。

 オススメ度B。

(1968年 フランス、イタリア 115分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

76『傷だらけの栄光』(1956年/米)A
75『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年/米、巴)B
74『ダンケルク』(2017年/英、米、仏、蘭)B
73『墨攻』(2006年/中、日、香、韓) A
72『関ヶ原』(2017年/東宝)
71『後妻業の女』(2016年/東宝)B
70『ショートウェーブ』(2016年/米)D
69『Uターン』(1997年/米)B
68『ミラーズ・クロッシング』(1990年/米)C
67『シザーハンズ』(1990年/米)A
66『グーニーズ』(1985年/米)B
65『ワンダーウーマン』(2017年/米)B
64『ハクソー・リッジ』(2016年/米)A
63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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