日本史上最も長く、規模の大きかった内乱を詳しく検証したベストセラー『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(2016年/中公新書)の著者が、今度は中世史における数々の陰謀論をブッタ斬って見せた。
源頼朝・義経兄弟の仲違いの真相、明智光秀が本能寺の変を起こした動機、関ヶ原で石田三成を追い詰めた徳川家康が実際には何を画策していたのか、等々、日本史マニア大好物のミステリーががっちり解説されている。
源義経は平氏討伐で戦功を挙げながら、人望の厚さと民衆からの支持の大きさを頼朝に妬まれ、最終的には源氏の中で孤立し、頼朝の軍勢に討たれたことになっている。
が、本書によると、それ以前に義経が自分の功績を鼻にかけて増長し、叔父の行家と組んで頼朝打倒に乗り出したため、頼朝としては半ば仕方なく義経の討伐に出ざるを得なかった、というのが真相だ。
本能寺の変に関しては、そもそも陰謀論自体がナンセンスであり、アカデミズムの世界ではまったく研究の対象にすらなっていないそうだ。
人質に取られていた光秀の母を織田信長が見殺しにしたとか、光秀が謀略を巡らせて乾坤一擲の勝負に打って出たとか、その背後には信長との間に長年の確執があったとか、小説、映画、NHK大河ドラマなどで何度となく繰り返されてきた陰謀論は、すべて一顧だに値しないという。
こういう「通説のウソ」が現代でも広く信じられているのは、家康の謀略によって三成の敗北が仕組まれていたという関ヶ原の合戦も同様。
合戦の前、前田利家が死んだことによって政局が動き、七奉行が三成討伐に出た途端、三成が機先を制して家康の伏見屋敷に逃げ込んだ、という重要な布石となった出来事も、近年の研究によればまったくの作り話だとか。
この三成が「死中に活」を求めたとされる逸話は、司馬遼太郎の小説『関ヶ原』、その映画化作品(前項)でも重要なエピソードとして描かれている。
しかし、私は映画より先に本書を読んでいたため、空々しさが先に立って仕方がなかった。
(発行:KADOKAWA 角川新書 初版:2018年3月10日 再版:同年4月5日 定価:880円=税別)
2018読書目録
13『無冠の男 松方弘樹伝』松方弘樹、伊藤彰彦(2015年/講談社)
12『狐狼の血』柚月裕子(2015年/KADOKAWA)
11『流』東山彰良(2015年/講談社)
10『炎と怒り トランプ政権の内幕』フランク・ウォルフ著、関根光宏・藤田美菜子他10人訳(2018年/早川書房)
9『カシタンカ・ねむい 他七篇』アントン・チェーホフ著、神西清訳(初出1887年~/岩波書店)
8『子どもたち・曠野 他十篇』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1888年~/岩波書店)
7『六号病棟・退屈な話 他五編』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1889年~/岩波書店)
6『最強軍団の崩壊』阿部牧郎(1980年/双葉社)
5『女子プロレスラー小畑千代 闘う女の戦後史』秋山訓子(2017年/岩波書店)
4『白鵬伝』朝田武蔵(2018年/文藝春秋)
3『ザナック/ハリウッド最後のタイクーン』レナード・モズレー著、金井美南子訳(1986年/早川書房)
2『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』ダン・アッカーマン著、小林啓倫訳(2017年/白楊社)
1『路(ルウ)』吉田修一(2012年/文藝春秋)