『リリーのすべて』(WOWOW)

The Danish Girl

『博士と彼女のセオリー』(2014年)の主人公ホーキング博士役でアカデミー主演男優賞を獲得したエディ・レッドメインが、世界で初めて男性から女性への性別適合手術を受けた人物を演じた作品。
 監督は『英国王のスピーチ』(2010年)でオスカーを獲得、『レ・ミゼラブル』(2012年)で現代の巨匠としての地位を確立したトム・フーパーが務めている。

 レッドメイン扮する主人公アイナー・ヴェイナーは1920年代、風景画で売れっ子になったデンマークの画家。
 妻のゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)も同業で、こちらは肖像画が専門だが、画商の評価は芳しくない。

 ある日、ゲルダのモデルで、夫婦共通の友人でもある踊り子のウラ(アンバー・ハード)が遅刻。
 かねてから夫のアイナーがきれいな肌と細い脚をしていることに目をつけていたゲルダは、ダンサー用のストッキングとシューズを履いて脚のモデルになってほしいと依頼する。

 そこへ遅れてやってきたウラが、女装したアイナーの可愛らしさ、女性らしさを褒め上げ、ゲルダと一緒になって「リリー」と呼ぶようになる。
 しきりに照れる夫の姿に悪戯心を起こしたゲルダは、アイナーを本格的に女装させ、「夫の従妹」だと偽ってパーティーや社交場に同行。

 不安がっている夫をダンスフロアでひとりにさせ、オドオドしているところを陰から眺めて笑っているあたりは、どう見てもいまで言う〝放置プレー〟だ。
 そんなアイナーに「リリー」として好意を寄せる知人の男性(マティアス・スーナーツル)が現れ、次第にアイナーの中の〝女性〟が目覚め始める。

 そうした最中、ゲルダは肖像画家として「リリー」を描くようになり、これが画商に高く買われて個展も大成功。
 当初、夫として妻の創作に協力していたはずのアイナーは、女装を重ねているうちに「リリー」から男性のアイナーに戻れなくなってゆく。

 こうして夫婦生活が破綻してゆくあたり、下手に生真面目に描くと生臭くなってしまうところを、フーパーはまるで絵画の中で人間が動いているかのように描いていく。
 アイナーとゲルダの夫婦が暮らすアパルトマンの部屋はさながら水彩画のようで、戸外の場面では左右対称の構図や絵画の遠近法を駆使した画作りが素晴らしい。

 このあたりは、『英国王のスピーチ』、『レ・ミゼラブル』でフーパーと組んだ撮影ダニー・コーエンのキャメラ、美術イヴ・スチュワートのセンスと手腕の賜物でもあろう。
 現代の性の問題、とりわけ取り上げ方の難しいトランスジェンダーという題材に取り組み、エンターテインメントとしても及第点の出来栄えに仕上げているところに、改めてハリウッドの底力を感じた。

 オススメ度A。

(2015年 アメリカ=フォーカス・フィーチャーズ/日本配給=東宝東和 2016年 124分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る