『強盗放火殺人囚』(セルDVD)

 前々項『脱獄広島殺人囚』(1974年)、前項『暴動島根刑務所』(1975年)に続く松方弘樹主演の〈刑務所シリーズ〉第3弾で、前作と同じ75年の暮れに公開されている。
 前2作がヒットしたので、稼げるうちに3作目も作ってしまえと、いう勢いだったのか、当時の岡田茂社長がつけたというお下品極まるタイトルからして、いかにも当時の東映らしい。

 すでに実録としてのネタはなく、脚本を書いた高田宏治と監督を務めた山下耕作は大胆にもコメディーへ路線変更。
 しかし、これがうまくいっているかどうかは見方の分かれるところでしょうね。

 松方の役どころは前2作とは打って変わって、刑期を真面目に務め上げ、仮釈放の日を心待ちにしている模範囚。
 ところが、恋女房・ジャネット八田が身元引き受け人になることを拒否したため、憤慨した松方は囚人仲間・前田吟、川谷拓三の手を借りて脱獄を図る。

 前田と川谷は韓国人の兄弟という設定で、松方にはおかしな日本語、兄弟同士では韓国語(恐らく吹替)でしゃべり、その場面では日本語の字幕が出る、という演出が面白い。
 ぼくがこういう演出を初めて見たのは『ガキ帝国』(1981年)が初めてだったが、本作が元祖だったのか。

 脱獄した松方は刑務所保安課長・菅貫太郎の家に籠城し、課長の妻・春川ますみを人質に取って、ここにおれの女房を連れてこい、と要求する。
 その女房・八田が駆けつけるまでの間、春川の太ももを見ているうちにムラムラと制欲を催した松方、その場でスカートを捲り上げてコトに及ぶところがおかしい。

 やがて、連れてこられた八田の口から、彼女が知り合いのヤクザに脅迫されていたことを知る。
 模範囚の松方は刑務所内で大学入試の問題用紙を印刷する仕事を担当しており、その一部を所外に横流しして、これを受け取ったヤクザが受験生を抱えた金持ちに高価で転売していた。

 そのため、松方にシャバに出られては困るヤクザたちが、八田を騙して秘かに仮釈の取り消しを諮ったのだ。
 松方があえなく刑務所に舞い戻ると、ヤクザたちは松方の口を塞ごうと若山富三郎を差し向けるが、ともに懲罰房送りとなった若山と松方は逆に意気投合。

 ここから前2作と同じように、脱獄しては捕まって、という繰り返しなる。
 で、案の定、展開もグダグダになり、脱獄したときに看守を殺害した松方が、画面が切り替わると取調も裁判も受けずに同じ刑務所へ連れ戻されている、というあたりは、いくら何でもいい加減過ぎる。

 エンディングも中途半端で、まるでフィルムをちょん切ってしまったかのような印象が残った。
 それでも、1時間半、退屈させないのはさすが東映ヤクザ映画ではあるが。

 オススメ度C。

(1975年 東映 91分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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