『博奕打ち外伝』(セルDVD)

 前項『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年)と同じく、明治時代後半の北九州・若松を舞台とした東映ヤクザ映画。
 当時、すでにこの路線は興行的に頭打ちとなっており、本作の2年後に公開された『仁義なき戦い』(1974年)の大当たりを機に、東映は任侠路線から実録路線へと舵を切った。

 という背景を知っているからか、いまこういう映画を見て感じるのは、生ぬるいなあ、というじれったさが半分、懐かしいなあ、というノスタルジアが半分。
 恐らく、当時の観客もある程度は同じような気分だったのではないだろうか。

 野上龍雄の脚本は、笠原和夫が書いた『博奕打ち 総長賭博』(1968年)と同工異曲。
 主役の鶴田浩二があっちにもこっちにも義理立てしてにっちもさっちもいかなくなり、図に乗った悪役たちが鶴田の子分や家族をイジメ続け、ついに鶴田が堪忍袋の緒を切り、大立ち回りに臨む。

 本作の場合は、九州全土を束ねる九州睦会の初代総長・辰巳柳太郎が、任侠道の建前を守り、実子の高倉健ではなく、若松の博徒一家の親分・若山富三郎を2代目会長に指名。
 以後、先代会長のお墨付きをもらったからと、若山の子分の代貸・松方弘樹が鶴田率いる川船頭の一家を潰しにかかる。

 鶴田は健さんと兄弟分で、その健さんの実父が若山。
 で、健さんに「兄弟、親分(実父の若山)が何を言っても堪えてくれ」と頼み込まれ、若松を去られてしまうと、義理堅い鶴田としては何もできない。

 そういう状況につけ込み、鶴田に無理難題を吹っかけ、若松でのし上がっていくのが、若山の組の代貸・松方である。
 左目が潰れ、足が不自由なこのキャラクターは親分・若山にぞっこんで、若山を男にするべく、鶴田の弟たち(菅原文太、伊吹吾郎)を殺害、さらには若山を後継指名した前の親分・辰巳まで手にかける。

 このあたり、錚々たる顔ぶれの役者たちが大した抵抗も見せず、あっさり死んでしまうのはいささか拍子抜け。
 とくに、松方の一派に取り囲まれた菅原と伊吹が、散々刺されて血まみれになりながら、実兄・鶴田との約束を守り、最後まで携えた長ドスを抜かなかった、というくだりはあまりにも綺麗事に過ぎる。

 一方、親分の若山は、自分の知らないうちに松方が独断で何をやっていたか、すべてを察していながら松方にケジメをつけさせることができない。
 逆に、常軌を逸した松方の行動が自分に対する愛と尊敬ゆえと知り、涙ぐんでヒシと松方を抱き寄せる場面には、任侠映画ならではの同性愛的な情感が漂っている。

 なお、このDVDの巻末に特典映像として収録されている予告篇を見ると、本篇とはまったく異なるシーンが多い。
 高倉の割腹自殺(本篇)が若山による刺殺(予告篇)に、若山と鶴田の1対1の対決(本篇)が鶴田対若山の子分たちの大立ち回り(予告篇)に変わっているのだ。

 こちらが本筋だったのだとすれば、本篇と予告篇とでは若山のキャラクターまでがまるで性格の違う人物になってしまう。
 どういうことなんでしょうね?

 オススメ度B。

(1972年 東映 103分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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