NHKのBS1スペシャルとして製作、放送された貴重なドキュメンタリー作品。
ロシア国立音声記録アーカイブで発見された731部隊の軍医や衛生兵の証言が収められたテープを元に、改めて関東軍が行なった人体実験の実相を浮き彫りにしている。
毒ガスや細菌兵器を研究していた731部隊は太平洋戦争中、中国のハルビンに本部と実験場を置き、中国人捕虜を人体実験に使って約3000人を死亡させたと言われる。
今回、世界的にも初めて公開された新たな資料は、1949年のハバロフスク裁判における731部隊関係者の証言が録音された磁気テープで、チフス菌やびらんガスを使った実験の模様が生々しく語られている。
前後編の2部構成で、前編「人体実験はこうして拡大した」で紹介されるのは、まず衛生兵・古都(チフス菌)、軍医・西俊秀(ペスト蚤、凍傷)、憲兵班・倉員(凍傷)ら人体実験に立ち合った証人たちの証言の数々。
続いて、関東軍総司令官・山田乙三、人事部長・田村、軍医部長・梶塚隆二らが731部隊の内情について語り、731部隊長・石井四郎がいかなる動機と手段を持ってこの部隊を作り上げたかが説明される。
単に昔の証言や資料を紹介するだけでなく、現在も生存している元部隊員・須永鬼久太氏にもインタビュー。
731部隊から京大に対し、細菌研究の報酬として1600円(現在の500万円に相当)が贈られたことを証明する文書まで発掘しているのには驚かされた。
後編「隊員たちの素顔」では、731部隊の軍医・柄澤十三夫の人物像が掘り下げられる。
証言台で涙を浮かべ、「自分の行いました悪事に対しまして、生まれ変わった人間として人類のために尽くしたいと思っております」と声をつまらせながら語った柄澤とはどのような人間だったのか。
NHKのスタッフは長野県に暮らす柄澤の長男・文夫さん、長女・明子さんを訪ね、生真面目で子煩悩だったという柄澤の素顔、人柄、731部隊に入隊した経緯を取材。
戦後、柄澤が抑留されていたシベリアから彼ら子供たちに送ってきた葉書を見せてもらい、彼らがいままで聞いたことのなかった証言テープの肉声を聞かせている。
日本の敗戦が決まると、731部隊長・石井四郎ら幹部はいち早く帰国し、研究データをアメリカ軍に渡すことで責任を免れ、戦後も国公立大学の教授や製薬会社の役員などに転身。
さらに1956年、関東軍総司令官・山田乙三も恩赦によって日本に帰国、時の鳩山首相にねぎらいの言葉をかけられている。
皮肉にもこの年、柄澤は45歳という若さでシベリアで客死。
731部隊による非人道的な実験に続いて、そういう実験を指示・主導した人間たちを日本政府が罰するどころか、何ら責任を追及することなく放置していた事実が示されてこのドキュメンタリーは終わる。
本作が放送されてから約3カ月後の4月15日、731部隊の隊員3607人の実名の名簿が国立公文書館から開示された。
731部隊の内情、彼らの犯した罪が本当に明らかにされるのは、これからなのかもしれない。
オススメ度A。