『ムーンライト』(WOWOW)

Moonlight

 第89回アカデミー賞作品賞の授賞式において、プレゼンターのフェイ・ダナウェイが本作と間違えて『ラ・ラ・ランド』(2016年)と発表した、というオスカー史上に残る大失敗で話題になった映画。
 しかし、内容は非常にシリアスで、出演者の全員が黒人であること、黒人男性の同性愛を描いている作品がオスカーを獲得したのは史上初と、そういう意味で本当に歴史的な1本と言っていい。

 主人公はマイアミの黒人街で生まれ育ったシャロン。
 幼少期をアレックス・ヒバート、高校時代をアシュトン・サンダース、大人になってからをトレヴァンテ・ローズという3
人の異なる俳優が演じている。

 はにかみ屋で引っ込み思案のシャロンは、家では癇癪持ちの母親ポーラ(ナオミ・ハリス)に虐待され、街の子供たちにもいじめられていた。
 そんなシャロンは、キューバ人社会で恐れられているクラック・コカインの売人フアン(マハーシャラ・アリ)に可愛がられるようになる。

 シャロンとともに成長してゆく幼馴染みがケヴィンで、こちらに扮しているのはジェイデン・パイナー、ジャレル・ジェローム、アンドレ・ホランド。
 ふたりとも幼いころは仲がよく、10代になって一度だけ、夜更けの浜辺でキスをし、性的交渉を持つ。

 シャロンが生きていくためには、ヤクの売人であるフアンを頼らざるを得なかった。
 そして、唯一心を許せるケヴィンと友情を超えた関係を持つのも、ごく自然な成り行きだったということを、この映画は見る者の心に染み込ませるように描いてゆく。

 しかし、高校でイジメをしているテレル(パトリック・デシル)に脅されたケヴィンがシャロンを殴れと強要され、ケヴィンが仕方なくシャロンを殴打。
 シャロンが復讐としてテレルに椅子をたたきつけた事件から、ふたりの関係は断絶してしまう。

 やがて成長したシャロンは、フアンのようなヤクの売人になり、母やケヴィンと再会する。
 ラスト、シャロンがケヴィンに本音を打ち明けるシーンには、同性愛者でなくても胸に響くものを感じる。

 こういう愛の形を普遍的に、説得力を持って描いていることが、現代のオスカーに値すると判断された所以であろう。
 ただし、いい映画を見たという気分になれるかどうかとなると、やはり個人差があるでしょうね。

 オススメ度B。

(2016年 アメリカ=A24/日本配給=ファントム・フィルム 111分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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