『アメリカン・バーニング』(WOWOW)

American Pastoral

 ユアン・マクレガーがフィリップ・ロスのピューリッツァー賞受賞作”American Pastoral”(1997年)の映画化権を買い取り、自ら監督・主演した力作。
 マクレガーがメガホンを取ったのは本作が初めてで、よほどロスの原作小説が気に入っていたらしいが、主演のほうは当初、別の役者ポール・ベタニーに依頼する予定だったらしい。

 開巻、ウィーカイック高校の1951年卒業生の同窓会が1996年に開かれる(つまり45年目の記念の同窓会)場面から物語は始まる。
 この高校はそこそこの名門らしく、語り部の人物がかつて兄の親友だった主人公シーモア・アーヴィング・レヴォヴ(マクレガー)について回想するところから本篇に突入。

 レヴォヴは高校時代、アメフトのスター選手で、色白だったことからスウェーデン人を意味するスウィードと呼ばれていたが、本当はユダヤ人。
 父親は高級革手袋の製造工場を経営しており、会社を継ぐことも早くから決まっていたお金持ちのお坊ちゃんでもある。

 高校時代、ミスコンテストの常連だった美人ドーン(ジェニファー・コネリー)と結婚し、一人娘メリー(ダコタ・ファニング)を設けて、絵に描いたようなアメリカ中産階級の〝勝ち組〟となったはずだった。
 が、メリーは幼いころから吃音症で、自分より美しい母親にコンプレックスを抱くようになり、成長するにつれて家庭崩壊の火種となってゆく。

 ベトナム戦争が泥沼化する中、当時流行した反戦運動に身を投じたメリーは、近所で起こった爆弾テロ事件の直後に蒸発。
 警察が容疑者としてメリーを追い、レヴォヴも娘を探し回る中、手袋工場に中途採用したばかりの女性社員が、メリーの居場所を知っているとレヴォヴに打ち明ける。

 このくだりのモデルは明らかに、1974年に新聞王ランドルフ・ハーストの孫娘がテロリストに誘拐され、自分もテロリストの仲間になってしまったパトリシア・ハースト事件だろう。
 レヴォヴが娘の捜索に必死で、まったく省みなくなった妻ドーンが不倫と美容整形に走るくだりも、アメリカの様々な価値観が崩壊していった当時のアメリカの社会状況の暗喩と見ることができる。

 しかし、こういう戦後からベトナム時代にかけての裏面史を描いたアメリカ映画なら、1980年代までにたくさん作られたし、ぼくも結構見てきたんですよね。
 それなりの完成度には達していると思うものの、正直なところ、終始〝今さら感〟がつきまといました。

 オススメ度B。

(2017年 アメリカ、香港 108分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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