Fire and Fury:Inside the Trump White House
サブタイトルは『~最期に仕掛けたサスペンス~』。
WOWOWのオリジナル番組『ノンフィクションW』シリーズの1本で、映画ファンには興味深い発掘ネタである。
ヒッチコックには、遺作となった53本目の作品『ファミリー・プロット』(1976年)の次に用意しているサスペンス映画の構想があった。
ロナルド・カークブライドというイギリス人作家が書いたスパイ小説”The Short Night”(画像=作品中で紹介されているペーパーバック版書影)の映画化である。
ヒッチコックは1968年、イギリスのテレビ局のインタビューでこの計画を明かし、原作の舞台となったフィンランドでロケハンも行っている。
主役には『マーニー』(1964年)で親しくなったショーン・コネリーをはじめクリント・イーストウッド、アル・パチーノらが候補に上がり、ヒロインにはリヴ・ウルマンを筆頭にフェイ・ダナウェイ、ジュヌヴィエーブ・ビュジョルドがリストアップされていた。
脚本は当初、『北北西に進路を取れ』(1959年)、『ファミリー・プロット』で組んだ大家アーネスト・レーマンが指名されたが、「現代の観客が求めるものが描かれていない」と断じたヒッチコックが一方的に解雇。
当時37歳だった新進気鋭のデヴィッド・フリーマンが新たに雇われ、連日数時間、ヒッチコックとランチ・ミーティングを重ねながら書き上げた。
製作に関わった元ユニバーサル・スタジオ社長トム・マウントによれば、ヒッチコックの晩年の作品、『引き裂かれたカーテン』(1966年)、『トパーズ』(1969年)、『フレンジー』(1972年)、そして『ファミリー・プロット』は集客力を失い、興行的には惨敗に終わった。
映画としてはよくできていても、大勢の観客を惹きつけ、「大ヒットとなる〝強さ〟がなかった」というマウントの証言は説得力がある。
当時、そんなヒッチコック作品の対極にあった映画がスティーヴン・スピルバーグの『ジョーズ』(1974年)である。
この大ヒット作は職人芸を極めたヒッチコック作品の何倍もの興行収入を稼ぎ出し、時代のイコンとしてカルト化、現在に至るまで様々な亜流や模倣が延々と再生産されていることはご存知の通り。
それまでヒッチコックを寵愛していたユニバーサル・スタジオ会長ルー・ワッサーマンも、『ジョーズ』以降はスピルバーグを〝金の成る木〟として猫可愛がりするようになる。
だからこそ、ヒッチコックは『ショート・ナイト』でワッサーマンの歓心を取り戻したかったのだろう、とマウントは証言している。
ヒッチコックが老齢と体力の衰えを悟り、製作を断念する幕切れには何とも言えない物悲しさが漂う。
オススメ度B。
(初放送:2018年3月4日 WOWOW 53分)