『グレイテスト・ショーマン』(TCX×DLBY-ATMOS)

The Greatest Showman

 感動した。
 ミュージカルを見て感動したことはいままでにもあったが、目に涙が滲んだのは人生で初めて。

 開巻、TOHOシネマズ新宿スクリーン9のTCXワイドスクリーン、DOLBY-ATMOS音響システムの紹介に続き、ほとんど間を置かず、シルクハットに真っ赤なジャケットというステージ衣装姿のヒュー・ジャックマンが登場。
 サーカス小屋に詰めかけた観客たちが足を踏み鳴らしてリズムを取り、オープニング・ナンバー「ザ・グレイテスト・ショー」が始まると、たちまち作品世界に引き込まれる。

 ジャックマン演じるバーナムは19世紀に活躍した実在の人物で、史上初めて観客の前で様々な芸を見せる興行形態を確立。
 アメリカの歴史に名を残す伝説的興行師、かつ「ショー・ビジネス」という概念を生み出したパイオニアでもあった。

 本作はバーナムの生涯を事実に即して描いた映画ではなく、あくまでバーナムの名前、業績、キャラクターをフィクションとして昇華したミュージカル・エンターテインメントだ。
 その華やかで艶やかな雰囲気、スピーディーでダイナミックな展開の中に、差別と偏見という現代のアメリカ社会が抱えた重要なテーマを突きつけてくる骨太の力作でもある。

 2番目のナンバー「ア・ミリオン・ドリームズ」に乗って、バーナムが洋服の仕立て屋(現実は安宿と雑貨屋の経営者)の息子だった幼少期が描かれる。
 バーナムは金持ちの娘チャリティに一目惚れしてその父親に引っぱたかれ、自分の父親を亡くして乞食同然の身になりながら、女学校の寮に入れられたチャリティに手紙を書き続ける。

 この序盤、路上で膝を抱えているとき、金を恵まれて顔を上げると、奇形児(フリークス)の子供が微笑んでいた、という場面が強烈な印象を残す。
 長じてチャリティ(ミシェル・ウィリアムズ)と結婚したバーナムは、かつて自分を救ってくれたのと同じフリークスをスカウトし、世間から身を隠すように暮らしている彼らに「ありのままの自分を見せよう」と口説いて回るようになった。

 小人のトム・サム(サム・ハンフリー)を象に乗せて将軍を演じさせ、黒人の兄妹W.D.(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世)&アン・ウィーラー(ゼンデイヤ)の空中ブランコで観客の目を奪い、髭もじゃの女性歌手レティ・ルッツ(キアラ・セトル)の歌で客席を魅了する。
 バーナムの〝フリークス・ショー〟はニューヨークで評判を呼び、連日ソールド・アウトの大盛況となったが、一方でヘラルド・トリビューン紙の批評家に下劣な見世物とたたかれ、プア・ホワイトの差別主義者が嫌がらせに押しかけてくる。

 大金持ちとなり、チャリティの実家に優るとも劣らない邸宅に住めるようになったころ、バーナムは娘のキャロラインの望みを叶え、バレエ学校に通わせ始めた。
 が、娘はその学校で「ピーナッツ(成り上がり者を指す差別用語)の臭いニオイがする」と蔑まれ、イジメに遭う。

 「ただの見世物ではダメ、本物でないと評価されないのよ」と娘に言われて、バーナムは一念発起。
 ブロードウェイで成功した脚本家フィリップ・カーライル(ザック・エフロン)をサーカスの仲間に引き入れ、これまでよりも高級なショーを見せようと腐心する。

 このくだりでは、ジャックとエフロンが酒場で踊りながら歌う「ジ・アザー・サイド」の歌と振り付けが素晴らしい。
 さらに、これよりしばらくのち、愛し合うようになったエフロンとゼンデイヤが、空中ブランコのワイヤーを使って飛び回りながらデュエットする「リライト・ザ・スターズ」にも目を奪われた。

 カーライルはイギリス演劇界とのコネを使い、バーナムの一座をヴィクトリア女王に招待させ、バッキンガム宮殿で公演を行うことに成功。
 バーナムはここでスウェーデンの歌姫と呼ばれ、ヨーロッパ随一の歌手として知られたジェニー・リンド(レベッカ・ファーガソン)と知り合い、ぜひアメリカでの公演をプロデュースさせてほしい、と頼み込む。

 「あなた、私の歌を聞いたことがあるの?」と聞くリンドに、バーナムは首を振って「ありません」と答え、「ぼくは自分の耳よりもあなたの評判を信じる」と言い募る。
 こうしてニューヨークで行われたコンサートでリンドが歌う「ネヴァー・イナフ」がまた圧倒的な迫力で、思わず涙をこぼしそうになった。

 リンドのおかげで批評家や上流階級に自分の地位を認めさせたバーナムだが、公演後のパーティーにやってきたチャリティの父親は相変わらずで、バーナムを「しょせんは仕立て屋の息子だ」と罵る。
 怒って「出て行け」と義父を会場からたたき出したバーナムは、そこへ一座のフリークスのメンバーがやってくると、今度は彼らを会場の中へ入れようとせずに追い返してしまった。

 おれはリンドのおかげで上流社会の一員になるのだ、もう誰にも差別されたくない。
 こうして上流社会での名声を求め、差別主義者に転んでしまったバーナムへの怒りをぶちまけるフリークスたちの歌「ディス・イズ・ミー」がまた、強烈に胸を打つ。

 バーナムは屋敷に妻と娘ふたりを残し、サーカスをカーライルに任せきりにして、リンドとともに全米41カ所のコンサートツアーに出かける。
 そんな最中、リンドはバーナムを愛していると告白、自分にも差別を受けた過去があったと打ち明ける。

 ユダヤ人が中心となって作り上げた映画とショービズの都ハリウッドは、差別と偏見に対する怒りと悔しさを武器に戦い続けてきた人間たちの街でもあった。
 恐らく、実在したバーナムと本作の人間像にはかなりの差があるだろうが、ハリウッド流ミュージカルのテーマ、モチーフ、手法がひとつの頂点を極めた作品として評価したい。

 19世紀の世界に現代のポップ・ミュージックを融合させたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールの楽曲は見事の一語。
 監督のマイケル・グレイシーもベテランのように気合いの入った演出で、これが処女作とは思えないほど。

 採点は90点。
 明日、サントラ盤買ってこよう、『T2 トレインスポッティング』と一緒に。

(2017年 アメリカ=20世紀フォックス/日本公開2018年 105分)

TOHOシネマズ渋谷・新宿・六本木ヒルズ、新宿バルト9などで公開中

※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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