Boxcar Bertha
『ミーン・ストリート』(1973年)、『アリスの恋』(1974年)と並ぶマーティン・スコセッシ初期の傑作の1本。
日本では当初お蔵入りしていたが、製作されてから4年後、『タクシードライバー』(1976年)にヒットにあやかって『ミー・ストリート』とともに公開された。
原題の「貨車のバーサ」は主演のバーバラ・ハーシー扮するヒロインの呼び名。
時は大恐慌の真っ只中にあった1930年代、軽飛行機で農薬散布の仕事をしていた父親が危険な仕事を無理強いされて墜落死してしまい、バーサは貨車に無賃乗車して流れ歩くホーボーになる。
その旅の途中でイカサマ賭博師のレイク(バリー・プリマス)と知り合い、レイクに騙されて激昂した相手をバーサが誤って射殺。
あちこち逃げ回ったあげく、かつて父親が働いていた農場の近くで鉄道工事の仕事をしていたビル(デヴィッド・キャラダイン)と巡り会い、たちまち恋に落ちる。
バーサとビルが貨車の中で藁まみれになりながらセックスをする場面が、美しくはないけれど匂い立つように生々しい。
撮影当時、キャラダインとハーシーは私生活でも交際していて、ともに「あの場面では本当にヤッていた」とコメントしているそうだが、事実かどうかは不明。
ビルは労働組合の世界で英雄視されている過激な活動家で、警察に最も危険な共産主義者としてマークされていた。
ストライキを煽動した罪で拘置所にぶち込まれると、ここの警察官が反抗的な拘留者を平気で射殺してしまうとんでもないやつらで、ビルは仲間とともに脱獄。
ビル、バーサ、レイク、それにバーサの父親が働く農場の使用人だったヴォン(バーニー・ケイシー)の4人組は強盗団となり、列車、銀行、州知事の邸宅を次々に襲撃する。
ちなみに、州知事を演じているのはデヴィッドの父親で、ベテランの名優として知られていたジョン・キャラダイン。
あくまでも活動家であることに誇りを持つビルは、労働組合の事務所に強奪した現金を持ってゆくが、当然のことながら受け取ってもらえない。
あげく、ビルはふたたび逮捕される羽目になり、バーサは売春婦に身を落とす羽目になる。
やがて、黒人専門のバーの前を通りかかったバーサは、その店で偶然ヴォンを見つける。
ヴォンは開巻からよくハーモニカを吹いているキャラクターとして登場し、この場面でもハーモニカの音を聞きつけたバーサが、吸い寄せられるように黒人しかいない店に入っていく、という演出が心憎い。
バーサはヴォンに案内され、また脱獄して郊外の掘っ立て小屋に身を隠していたビルと再会、ふたりで逃げようとしていたところを、追っ手の警官たちに襲われる。
クライマックス、血みどろにされたビルが、貨車の壁にキリストのように磔にされるシーンが実に痛々しい。
そこへ駆けつけたヴォンが警官たちを皆殺しにした直後、ビルが磔にされた貨車が走り出して、泣きながら追い続けるバーサの姿をカメラが執拗に追う。
映画史上、これほど悲痛なラストシーンは、ぼくの記憶を探ってもほかになかなか類例がない。
あちこちに低予算映画(製作費60万ドル)ならではの苦しさ、安っぽさが漂う作品だが、それがまたいかにも70年代っぽく、幕切れの余韻を一層印象深いものにしている。
オススメ度A。
(1972年 アメリカ=アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ/日本公開1976年 92分)
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