2017年にノーベル文学賞を受賞した日系イギリス人作家カズオ・イシグロの同名小説を、やはりイギリスの名匠ジェームズ・アイヴォリー監督が映画化した作品。
劇場公開当時、アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞など主要8部門にノミネートされた。
物語は第二次世界大戦が終わってから11年後の1956年、アンソニー・ホプキンス演じる執事ジェームズ・スティーヴンスが、長年仕えたイギリスの邸宅ダーリントン・ホールに新たな主人を迎えるところから始まる。
この屋敷はかつて由緒ある名家の英国紳士ダーリントン卿(ジェームズ・フォックス)が所有していたが、この日からアメリカで成り上がった政治家ルイス・ファラディ(クリストファー・リーヴ)のものになったのだ。
開巻、ホールの中でかつてはダーリントン卿の財産だった名画の数々がオークションにかけられ、ファラディが次々に競り落としていくくだりが、主の交代と時代の変遷を印象づける。
そのファラディは、スティーヴンスを労う意味で、しばらく仕事はしなくてもいいから休暇を取って旅行にでも行くようにと勧める。
しかし、執事としての仕事や習慣が身に染みついているスティーヴンスには、使用人が人手不足になっていることが心配でならず、とてものんびりとしていられない。
ちょうどかつて屋敷で働いていたメイド、ミス・ケントン(エマ・トンプソン)から手紙が届いており、彼女にもう一度職場に復帰してもらえないかと考えたスティーヴンスは、彼女の元へと車を走らせる。
ここから物語はスティーヴンスの回想になり、1920~30年代、かつての主人だったダーリントン卿をめぐる人間模様が繰り広げられる。
そのころのミス・ケントンは使用人として非常に有能だったのみならず、歯に衣着せぬ性格で、スティーヴンスが愛してやまない父親ウィリアム(ピーター・ヴォーン)について、給仕をするには年を取り過ぎているとスティーヴンスに直接進言するほどだった。
スティーヴンスは当初、そんなミス・ケントンを疎ましく思いながら、次第に好意を抱くようになってゆく。
このスティーヴンスを中心とした父親、ミス・ケントン、さらにダーリントン卿との関係が大変きめこまかく描写され、優しさと緊張感がない交ぜになった独特の雰囲気が素晴らしい。
やがて、ダーリントン・ホールで秘密裏に国際会議が開かれ、ダーリントン卿がナチスの台頭著しいドイツに肩入れしていることがわかってくる。
ナチスの思想に感化されたダーリントン卿は、身寄りのないユダヤ人の娘2人を解雇するようスティーヴンスに通告。
この決断を本人たちに伝えるよう、スティーヴンスに指示されたミス・ケントンは激しく反発する。
そして、スティーヴンスに惹かれていたにもかかわらず、別の男性の求婚を受け入れ、屋敷を去る決心をしたのだった。
スティーヴンスをはじめ、誰もが自分の仕事と信条に忠実に生きているがゆえに離ればなれになってゆく顛末を、監督のアイヴォリーは淡々と、しかしこちらの心にしっかりと引っかかりを残すように語ってゆく。
役者も全員好演で、とりわけホプキンスの抑制の効いた執事ぶりはオスカーを受賞できなかったのが不思議なくらい。
オススメ度A。
旧サイト:2018年01月5日(金)Pick-up記事を再録、修正
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