一極集中でいいのか

記者のひとりごと

○2002年12月号掲載

 阪神の星野監督に同意する。巨人の金権体質への疑問だ。

 大リーグへ行った松井秀喜が抜けた穴を、ヤクルトを辞めたペタジーニで埋めることになった。2年契約で20億円を超える報酬という。競合していた阪神、横浜、中日は負けた。

 「強化のためには当然。うちに取るなというのは社会主義的発想だ」と渡辺オーナーは意気軒昂だった。確かにルール上は全く問題ない。だが、渡辺オーナーをはじめ巨人の関係者には、プロ野球界の行く末に一抹の不安もないのか。

 巨人が圧倒的に強く、他球団が目標にしていた時代があり、それが人気の源泉になっていたのは事実だ。川上監督の下で9年連続日本一を成し遂げた60年代から70年代にかけ、長嶋、王を主軸にしたチームは無敵を誇った。

 パ・リーグの南海や阪急は「打倒巨人」を合言葉に日本シリーズで全力で立ち向かった。セ・リーグの阪神も巨人戦になると異様に燃えた。本場の大リーグの戦法をいち早く取り入れ、技術革新に余念がなかったV9チームは常に輝いていた。

 今はもうそんな時代ではない。野球がプロスポーツの代表だった時代は終わった。サッカーのJリーグが台頭し、大リーグの面白さも伝わった。人々の趣味は多様化する一方だ。

 特定の球団だけが強くなり、毎年日本一になるようなプロ野球をだれが見たいか。巨人ファンだって拍子抜けだろう。勝ったり、負けたりが競技スポーツの醍醐味だ。

 賢明な原監督にそれがわからないはずはない。西武との日本シリーズに4勝無敗と圧勝した夜。疑問が少しもわかなかったとしたら暗愚の将だ。

 人のいい監督だけに、渡辺オーナーに「うちだけがこんなに強くなっていいものでしょうか」などと言えるはずはなかろうが、他球団の主力を根こそぎ集める手法で優勝することに後ろめたさを抱く感性だけは持ってほしい。「球界の盟主としては企業努力を欠かせないんだ」と開き直られると、こちらはぐうの音も出ないが。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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