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『映画監督 深作欣二』深作欣二、山根貞男
2015年06月28日(日)


 一世を風靡した映画監督・深作欣二が2003年1月12日に亡くなってから半年後に出版された回顧録。

 深作シンパの映画評論家・山根貞男によるインタビュー形式でまとめられており、明らかに前年2002年に大好評を博した脚本家・笠原和夫の『昭和の劇 脚本家 笠原和夫』(太田出版)を意識したつくりになっている。
 インタビューが開始されたのはすでに医者から前立腺がんを告知されたあとで、深作本人も遺言のつもりだったのだろう、半生とフィルモグラフィーをじっくりと振り返っている。

 冒頭で興味深かったのは、最も影響を受けた映画としてマルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』(1945年/仏)を挙げていること。
 代表作『仁義なき戦い』シリーズ(1973〜74年)の脚本を書いた笠原和夫がバルザック的人間喜劇を手本としていたことは知っていたが、実は深作のほうにも同じ素養があったわけだ。

 言われてみれば、なるほど、と膝を打ちたくなるけれど、言われるまでは想像もつかない、という因果関係の好例。
 まあ、『天井桟敷』は映画史上に残る傑作なので、当時の映画人は大なり小なり誰もが影響を受けていたはず、と言ってしまえばそれまでではあるが。
 
 一方、ロベルト・ロッセリーニの名作『戦火のかなた』(1946年/伊)になると、笠原と深作の間で評価が真っ二つに割れている。
 笠原が絵空事にしか見えないとこき下ろしているのに対し、深作は大変感動した、戦争がしっかり描かれていると絶賛しているのだ。

 笠原は深作より3歳年上で、「戦時中は1〜2年の年齢差でも感性や物事の受け止め方に大きな差が生じる」と言っていたのは小林信彦。
 ロッセリーニに対する見解の相違もまた、そんな年齢差の断層によるものか。

 しかし、率直に言って、肝心の代表作についての述懐は、大部の割りに中身に乏しい。
 『仁義…』シリーズひとつとっても、「いまだから話せる裏話」が山とあったはずだが、本書が後世に残ること、息子の健太が同じ映画業界で生活していくことを慮ってか、いやに遠慮がちな概説に終始している。

 とくに、深作最後の現代アクション映画となった『いつかギラギラする日』(1992年)については、もっともっと詳細に言及してほしかったところ。
 テレビドラマ『傷だらけの天使』(1974〜75年)で初めて仕事をした萩原健一と深作が、改めてがっぷり四つに組んだ最初で最後の劇場用映画だからだ。

 これは萩原さんにとっても結果として最後のアクション映画≠ニなっており、ぼく自身が好きな作品の1本でもある。
 のちにぼくが自伝『ショーケン』(2007年、講談社)の構成を務めたときには、ぼくから萩原さんに持ちかけてかなりの紙数を割いているほど。

 その一方、神代辰巳監督の『アフリカの光』(1975年/東宝)については1行も触れておらず、ネットのレビューでは「ゴーストライターが神代を知らないのではないか」などと書かれたりした。
 しかし、詳しくは書けないが、これは萩原さん本人の強い意向だったのである。

 以上、余談でした。

(発行:ワイズ出版 第1刷:2003年7月 定価:4200円=税別)

 2015主要読書録

9『「妖しの民」と生まれきて』笠原和夫(1998年/講談社)
8『都会で聖者になるのは大変だ ブルース・スプリングスティーン インタビュー集 1973-2012』ジェフ・バーガー編(2013年スペースシャワーブックス)
7『あ・うん』向田邦子(1981年/文藝春秋)
6『霊長類ヒト科動物図鑑』向田邦子(1981年/文藝春秋)
5『エキストラ・イニングス――僕の野球論』松井秀喜(2015年/文藝春秋)
4『海辺のカフカ』村上春樹(2002年/新潮社)
3『坑夫』夏目漱石(1908年/岩波書店)
2『らも 中島らもとの三十五年』中島美代子(2007年/集英社)
1『カポーティ』ジェラルド・クラーク(1999年/文藝春秋)