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『1985年のクラッシュ・ギャルズ』柳澤健
2011年11月19日(土)

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 面白い。一日で読み終えてしまいました。
 とくに面白かったのは第五章『青い水着』で、ライオネス飛鳥とジャガー横田が日本武道館のメーンイベントで最高レベルの試合を見せながら、長与千種とデビル雅美のセミファイナルに完全に食われてしまうくだり。
 翌日のフジテレビの中継では長与のファイトに尺が割かれ、飛鳥の試合はズタズタにカットされてしまった。
 一方、デビルに負けた長与は、デビルが試合後に「長与を褒めてやってください」とマイクでアピールしたとき、反射的に「やられた」と思っている。
 畜生、いいところを持って行きやがって、と。
 クラッシュ・ギャルズとは何だったか、女子プロレスとは何だったか、まざまざと実感させられる場面だ。
 ついでに、このあたりを読んで、やられた、と思った著者と同世代のライターも多いのではないかしらん。
 ぼくも嫉妬を覚えたことを白状しておきます。
 正直なところ、プロレスはノンフィクションの素材にはなりにくいと思っていました。
 金子達仁さんが田延彦を描いた『泣き虫』には詳細にプロレスの内実が綴られていたけれど、高田のレスラー人生が読者の腹に落ちる域にまでは達していない。
 田はアスリートなのか、ショーマンなのか、その位置づけが著者の中で、というより田本人の中ですら明確になっていない、という印象が強かった。
 つまり、UWF時代の田は、この『1985年のクラッシュ・ギャルズ』でいえば長与千種ではなく、ライオネス飛鳥みたいなレスラーだった。
 しかし、長与は違う。
 昔、テレビ中継を見ていたときは少女っぽい印象が強かったけれど、実際には計算高く、高慢ちきで、鼻持ちならない自己愛の持ち主だった。
 その上、すべてを自分の思い通りに運ぼうとする支配欲のかたまりでもある。
 ところが、その長与はいまもまだ輝きを放っているのです。少なくとも、このノンフィクション作品の中では。
 時を越えて新たな光を照射するのがノンフィクションの役目であり、読者にとっての醍醐味でもあるとすれば、この本はかなり理想的な出来栄えを示している。
 御一読をお勧めします。

(発行:文藝春秋 初版:2011年9月15日 定価:1600円=税込)