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『キャタピラー』
2010年08月14日(土)


 監督の若松孝二さんには昨秋、東中野の喫茶店で話を聞かせていただいた。この秋に出る根津甚八さんの半生記のためのインタビューである。根津さんの映画デビュー作『濡れた賽ノ目』(1974年、日活)は若松さんの監督作品だったのだ。
 ぼくが定刻の10分前に行くと、若松さんはもう隅のボックスに待ち構えていて、その佇まいの印象が非常に強烈だったことを覚えている。いかにも昔の活動家風に、帽子をかぶり、サングラスをかけ、小さなショルダーバッグを担いだまま。
 聞けば、連合赤軍のメンバーで、よど号ハイジャック事件にも関わった和光晴生氏に、小菅拘置所で面会してきたばかりだという。和光氏の無期懲役が確定し、いずれ会えなくなってしまうから、その日のうちに顔を見ておく必要があったのだ。
 若松さん自身、翌日から検査入院することになっているため、面会のあとに少しばかり空いている時間しか、インタビューを入れられる余地がなかったという。しかも、『キャタピラー』をギリシャ映画祭に出品するため、退院の翌日にはギリシャへ発たなければならない。
 それだけでも大変なバイタリティーだと感服していたら、口でこそ「検査入院」だと言っていた若松さん、実は前立腺を手術していたとあとになってわかり、二重の意味で大いに驚かされたのだった。
 そのことは、後日インタビューしたクマさんに聞いた。ギリシャからクマさんに電話してきた若松さんは、「手術の跡の血がとまらないから、ずっとおむつをしてるんだ」と受話器の向こう側で笑っていたという。
 そのクマさんも、『キャタピラー』に極めて重要な役割で登場している。恐らく、クマさんが演じた「村のキチガイ」は、若松さん自身が投影されたキャラクターなのではないか。台本にはなかった役で、セリフもほとんどクマさんの即興らしい。どこかに自分を紛れ込ませたいと考えた若松さんの心情を象徴する人物だと思う。
 主演の寺島しのぶさんはかつて根津甚八さんと同じ事務所に所属しており、寺島さんのマネージャーは当時、根津さんの仕事も担当していた。そうした縁から『キャタピラー』に関する話はいろいろと耳にしていたので、何としても初日に駆けつけたいと思っていたのだった。
 素晴らしい作品である。84分しかない小品なのに、2時間半の大作に優るとも劣らないほどの疲労感が残る。それだけ、濃密な人間ドラマなのだ。とりわけ、後半のヤマ場、亭主の久蔵(大西信満)がのたうち回り、寺島さん演じるシゲ子が歌を歌い始める場面には息を呑んだ。
 もちろん、個人的には違和感を感じる部分もないではない。とくに、エンディングの元ちとせの歌は必要だったかどうか。これがあるぶん、見終わったあとに爽やかさが残る半面、ズシリとこたえたテーマの重さをはぐらかされたような気もしてしまう。
 そういえば、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008年)も、最後の最後で、これ、青春映画だったのかよ、と思っちゃったんだよな、おれ。それが若松作品のポジティブな本質なのかもしれないね。 

 8月14日より新宿テアトルほかで公開中

 2010映画チェックリスト
※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)


43『小さな命が呼ぶとき』(米=ソニー)75点
42『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(リトルモア)70点
41『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』(東宝)65点
40『ガールフレンド・エクスペリエンス』(米)75点
39『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(米=WB)80点

38『七人の侍』(東宝)95点
37『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』(米)85点
36『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(ティ・ジョイ)90点
35『BOX 袴田事件 命とは』(スローラーナー)75点
34『告白』(東宝)90点
33『闇の列車、光の旅』(米、メキシコ)80点
32『川の底からこんにちは』(ユーロスペース、ぴあ)80点
31『サバイバル・オブ・ザ・デッド』(米)75点
30『アカシア-ACACIA-』(角川ほか)65点
29『クレイジー・ハート』(米=FOX)80点
28『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(松竹)75点
27『パーマネント野ばら』(ショウゲート)80点
26『しあわせの隠れ場所』(米)85点
25『クロッシング』(韓)60点
24『第9地区』(米)90点
23『苦い蜜〜消えたレコード〜』(アステア)60点
22『アイガー北壁』(独)85点

21『抵抗(レジスタンス) 死刑囚の手記より』(仏)85点
20『海の沈黙』(仏)80点

19『サヨナライツカ』(アスミック・エース)65点
18『プレシャス』(米)75点
17『タイタンの戦い』(米=WB)75点
16『17歳の肖像』(英=ソニー)80点
15『月に囚われた男』(英=ソニー)75点
14『ソラニン』(アスミック・エース)80点
13『マイレージ、マイライフ』(米=パラマウント)80点
12『NINE』(米)70点
11『噂のモーガン夫妻』(米=コロンビア)70点
10『ハート・ロッカー』(米)85点
9『バッド・ルーテナント』(米)85点
8『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(米=FOX)80点
7『交渉人 THE MOVIE』(東映)55点
6『抱擁のかけら』(西)80点
5『フローズン・リバー』(米)85点
4『おとうと』(松竹)80点
3『サロゲート』(米=ディズニー)75点
2『釣りバカ日誌20ファイナル』(松竹)70点
1『アバター』(米=FOX)80点


※紺=新作
※茶=旧作