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『戦国と宗教』神田千里
2018年07月2日(月)


 アメリカ映画『沈黙 -サイレンス-』(2016年)についての批評やレビューをネットでチェックしていた際、あの作品を批判的に捉えていたサイトで紹介されていた岩波新書。
 キリスト教の宣教師たちは布教のために来日した際、権力者によって弾圧されたことばかり強調していたが、その前に自分たちがどれだけ仏教を攻撃していたかが、ポルトガルと日本双方の資料によって詳しく検証されている。

 著者は日本中世史を専攻する文学博士で、東大文学部を卒業しており、現在は東洋大の教授を務めている人物。
 第一章「合戦と大名の信仰」では戦に臨む戦国武将たちと宗教との関係、第二章「一向一揆と民衆」では従来小説や映画の時代劇などで反権力活動と見なされてきた一揆と、信徒を使嗾したと言われる本願寺派寺院との関連性が詳述されている。

 一際面白く、興味深いのはやはり、第三章「キリスト教との出逢い」、第四章「キリシタン大名の誕生」。
 本書によれば、豊臣秀吉は当初キリスト教の日本進出に寛容で、イエズス会の司祭ルイス・フロイスらの布教活動を容認していたところ、彼らが仏教を「悪魔による邪教」と見なし、激しく攻撃するようになったという。

 司祭たちは仏教からキリスト教へ改宗した信者たちに対し、仏像や経典を焼却するよう指示した上、キリスト教に宗旨替えした地域の寺院を焼き討ちするに至った。
 そればかりか、ディオゴ・メスキータという司祭などは、交易していたゴア(インド)の副王との友好関係を保つため、日本の信者の子供たちを拉致し、副王への進物、つまり奴隷としてゴアに送っていたのである。

 そういうイエズス会の横暴をあえて黙認していた代表的な戦国大名が、キリシタン大名として有名な有馬晴信。
 しかし、この少年少女の奴隷・進物扱いはいくら何でもやり過ぎで、泣き叫ぶ母の手から子供を引き剥がす司祭たちは領民の恨みを買い、一時はキリスト教がボイコットされる事態にまで発展している。

 本願寺派をはじめとする仏教側も、そうしたキリスト教側の攻撃性や増長ぶりにたまりかね、仏教に対する攻撃を諌めるよう秀吉に依頼。
 これを受けて秀吉はキリスト教側に対し、仏教側への攻撃を続けるのなら日本を離れてもらいたい、そのための手切れ金≠燉p意しよう、とまで提案している。

 映画『沈黙…』に描かれたキリシタン弾圧の前段には、以上のようなポルトガル人司祭たちによる仏教への攻撃、及び日本の信者たちに対する非人道的な行為があったわけだ。
 先月30日、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産が世界遺産に登録されることが決まったが、日本の子供が奴隷として送り込まれたゴアの教会群や修道院群はもっと早く1986年に登録されている。

 それ自体は慶賀すべきこととして、かつて日本とゴア、キリスト教と仏教の間に何があったのか、日本人としては埋もれた史実を学ぶことも必要だろう。
 こう書くと、キリスト教に対する偏見に満ち、当時の司祭を悪役に仕立てたトンデモ本のように思われるかもしれないが、本書はあくまでもアカデミズムによる宗教史の解説書である。

 文章は平易でわかりやしく、極めて淡々と、確かな資料に基づいて記述されている。
 キリスト教徒も仏教徒も、宗教に興味のない人にも是非一読をお勧めしたい。

(発行:岩波書店 岩波新書 第1刷:2016年9月21日 定価:820円=税別)
  
 2018読書目録

14『陰謀の日本中世史』呉座勇一(2018年/KADOKAWA)
13『無冠の男 松方弘樹伝』松方弘樹、伊藤彰彦(2015年/講談社)
12『狐狼の血』柚月裕子(2015年/KADOKAWA)
11『流』東山彰良(2015年/講談社)
10『炎と怒り トランプ政権の内幕』フランク・ウォルフ著、関根光宏・藤田美菜子他10人訳(2018年/早川書房)
9『カシタンカ・ねむい 他七篇』アントン・チェーホフ著、神西清訳(初出1887年〜/岩波書店)
8『子どもたち・曠野 他十篇』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1888年〜/岩波書店)
7『六号病棟・退屈な話 他五編』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1889年〜/岩波書店)
6『最強軍団の崩壊』阿部牧郎(1980年/双葉社)
5『女子プロレスラー小畑千代 闘う女の戦後史』秋山訓子(2017年/岩波書店)
4『白鵬伝』朝田武蔵(2018年/文藝春秋)
3『ザナック/ハリウッド最後のタイクーン』レナード・モズレー著、金井美南子訳(1986年/早川書房) 
2『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』ダン・アッカーマン著、小林啓倫訳(2017年/白楊社)
1『路(ルウ)』吉田修一(2012年/文藝春秋)