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『狐狼の血』柚月裕子
2018年05月11日(金)


 明日12日の公開を控え、東映が「『仁義なき戦い』(1973年)以来のヤクザ映画の傑作」と宣伝している話題作の原作小説。
 私はそんな映画がつくられているとは露知らず、しばらく前にヤクルト・某打撃コーチに推薦されて読んでみました。

 開巻、物語の舞台が「呉原市」、つまり呉と竹原をくっつけた架空の市であることに吹き出してしまう。
 このいかにもなネーミングからして、広島と小倉を混ぜた「倉島市」を舞台とした『県警対組織暴力』(1975年)への明らかなオマージュだ。

 主人公の暴力団担当刑事・大上章吾、尾谷組若頭・一ノ瀬守孝の関係も、あの映画の刑事・久能徳松(菅原文太)、ヤクザ・広谷賢次(松方弘樹)の関係を容易に想起させる。
 映画化版では大上を役所広司、一ノ瀬を江口洋介が演じているそうだが、私より上の世代がこの原作小説を読んだら、大上が文太、一ノ瀬が松方に思えてしょうがないだろう。

 著者自身も東映実録路線の大ファンで、『県警』や『仁義』シリーズなどはDVDを買い込んで何度も鑑賞したという。
 そういう勘所を押さえた描写やセリフが非常に多く、かつての東映ファンなら一気に読んでしまうはずだ。

 それでいて、現代のミステリ小説としてのトリックやどんでん返しも効果的に盛り込まれている。
 とりわけ、プロローグとエピローグのつながり、各章の前に挟まれた大上の部下・日岡の日誌の使い方が秀逸。

 最初のうちは何の意味があるのやらさっぱりわからないが、クライマックスまできて「あっ」と思わせる。
 ただし、登場人物たちが話す広島弁は、かつての東映映画と同様、「広島風東映方言」とでもいうべきものであって、私のようなネイティヴ広島弁スピーカーはついつい苦笑せざるを得ません。

(発行:KADOKAWA 角川文庫 初版:平成29年8月25日 13版:平成30年4月5日 定価:760円=税別
 単行本発行:KADOKAWA 2015年8月)
  

 2018読書目録

11『流』東山彰良(2015年/講談社)
10『炎と怒り トランプ政権の内幕』フランク・ウォルフ著、関根光宏・藤田美菜子他10人訳(2018年/早川書房)
9『カシタンカ・ねむい 他七篇』アントン・チェーホフ著、神西清訳(初出1887年〜/岩波書店)
8『子どもたち・曠野 他十篇』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1888年〜/岩波書店)
7『六号病棟・退屈な話 他五編』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1889年〜/岩波書店)
6『最強軍団の崩壊』阿部牧郎(1980年/双葉社)
5『女子プロレスラー小畑千代 闘う女の戦後史』秋山訓子(2017年/岩波書店)
4『白鵬伝』朝田武蔵(2018年/文藝春秋)
3『ザナック/ハリウッド最後のタイクーン』レナード・モズレー著、金井美南子訳(1986年/早川書房) 
2『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』ダン・アッカーマン著、小林啓倫訳(2017年/白楊社)
1『路(ルウ)』吉田修一(2012年/文藝春秋)