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『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』ダン・アッカーマン
2018年01月13日(土)


 テトリスはぼくが最もハマったゲームである。
 スペース・インベーダーにはすぐに飽き、パックマン、ドンキーコング、スーパーマリオなどにはほとんど手もつけなかったのに、何故かテトリスにだけは夢中になった。

 日本でも流行し始めた1989年ごろ、巨人の宮崎キャンプを取材中、球団宿舎だった青島グランドホテルの1階ロビーで、暇さえあればテトリスのマシンにへばりついていた。
 同じようにテトリスに血眼になっている記者はほかにも大勢いて、巨人の選手や若い外国人も缶ジュースをマシンの上に置き、腰を据え、ガチャガチャゴトゴトと音を立てながらブロックを操作していたものだ。

 そのテトリスがいつ、誰に、いかにして開発され、どのような過程と経路を経て全世界に流布されたか、一大ブームの顛末を詳しく描いたのが本書である。
 テトリスがソ連の科学者によって作られたことぐらいは知っていたが、それがロシア科学アカデミー(RAS)に勤めるアレクセイ・パジトノフという人物で、あれほどの世界的大流行を巻き起こしたにもかかわらず、ある時期まで本人には一銭も渡っていなかったとは知らなかった。

 本書の白眉は、そのテトリスの販売権をめぐり、任天堂、アタリ・ゲームス、イギリスのメディア王ロバート・マックスウェルが激しい争奪戦を繰り広げるくだり。
 1980年代後半、ソ連はペレストロイカの一環としてグラスノスチ(情報公開)を推し進めていた最中で、西側諸国では常識となっていたロイヤルティや版権ビジネスという概念が認知されていなかった。

 そこへ勇躍乗り込んだゲーム会社の男たちが、頭の硬いロシア人の役人を相手に丁々発止の議論や商談を持ちかける場面には、時に手に汗握らされ、時に大笑いさせられる。
 そうした最中、本書の主人公ともいうべき任天堂の代理人、アメリカ、日本、ハワイを渡り歩いたゲーム開発者ヘンク・ロジャースは、秘かにテトリスの生みの親パジトノフとの友情を育んでゆく、というあたりも大きな読みどころ。

 単なるゲーム業界の内幕本にとどまらない人間群像劇、かつ国際経済を描いたノンフィクションとしても面白く読める。
 テトリスの中毒性について、科学的・医学的な考察を試みたくだりも大変興味深かった。

(発行:白楊社 翻訳:小林啓倫 第1版第1刷:2017年10月17日 定価:2300円=税別)

 2017読書目録

1『路(ルウ)』吉田修一(2012年/文藝春秋)