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『路(ルウ)』吉田修一
2018年01月11日(木)

 昨年初めて台湾に出かけた際、ツイッターのフォロワー「モリパー」さんに勧められた芥川賞作家・吉田修一の長編小説。
 台湾で新幹線を導入する工事が行われた2000〜07年、日台両国の男女が繰り広げる人間ドラマが描かれている。

 主人公は新幹線事業のために日本から台湾への異動を命じられる大井物産の多田春香と、彼女が学生時代の台湾旅行で知り合った学生で、のちに日本の建設会社に就職する劉人豪。
 このふたりが恋を実らせるかどうかという10年越しのラヴストーリーを縦軸に、春佳の上司・安西と台湾人ホステス・ユキ、新幹線の整備工場に勤める陳威志と恋人の張美青、台湾生まれの基建設会社社員・葉山勝一郎と幼馴染の台湾人、日本名・中野赳夫など、世代も個性も様々な人間たちがからむ。

 最も印象に残るのは、春香が台湾の友人から「私たち台湾人は日本のことをとても意識しているのに、あなたたち日本人は私たちほど台湾のことを気にかけてくれない」という本音を打ち明けられるくだり。
 事実、ぼくも乗った台湾の新幹線プロジェクトは、日台両国にとって大変歴史的な事業だったにもかかわらず、日本ではあまり大きく報じられず、むしろ工事の遅れなどに関するネガティヴな報道のほうが目立った、と作品中でも当時の産経、朝日の新聞記事を引用する形で指摘されている。

 このあたり、もう少し新幹線事業の具体的な内容に触れ、日台両国関係者のジレンマをもっと詳しく書き込んでもよかったような気もする。
 ただ、著者の狙いは最初から別のところにあるので、これはぼく個人の無い物ねだりかもしれないが。
 
 本作に登場する日本人と台湾人は、それぞれお互いに理解を深め、友情を育くみ、新幹線の導入を機に両国の心の距離≠ェもっと縮まるようにと努力を重ねる。
 彼ら・彼女らがようやく開通した新幹線に乗り合わせ、同じ車両の中で感慨に耽り、未来に思いを馳せるラストには予想外に爽やかな感動を覚えた。

(発行:文藝春秋 文春文庫 第1刷:2015年5月10日 定価:670円=税別
 単行本発行:文藝春秋 2012年11月)

2018読書目録