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『鷲は舞い降りた[完全版]』ジャック・ヒギンズ
2017年07月16日(日)
The Eagle Has Landed


 早川書房のフェア企画で、同社の公式Twitterアカウントのフォロワー5万人が選ぶ「はじめてのハヤカワ文庫」29作品のうちのひとつ。
 ハヤカワ文庫はハードボイルドもSFも結構読み漁ったが、不勉強にしてこの作品は未読のままだった。

 言うまでもなく、冒険小説の世界では不朽の名作とされている古典。
 第2次世界大戦末期、敗色濃厚なナチス・ドイツで、ヒトラーの世迷い言から立案された「チャーチル誘拐計画」に従事する兵士たちの姿が描かれる。

 この任務遂行を命じられたのは、ドイツ人の父とアメリカ人の母を持ち、ユダヤ人の少女を救った行為を咎められて懲役隊に回され、人間魚雷を操縦していた元落下傘部隊の英雄クルト・シュタイナ中佐。
 イギリスを打倒するためならと彼に協力するのが、IRAの闘士で、飲んだくれのテロリスト、リーアム・デヴリン。

 ゲシュタポ長官ヒムラーに父親を人質に取られたシュタイナは、チャーチルが極秘裏に訪れる予定のイギリス東部ノーフォークの寒村スタドリ・コンスタブルに潜入する。
 ここにはデヴリンが正体を隠して移り住んでおり、彼らに協力するイギリス側のスパイが、イギリス国籍を有しながらこの国に激しい恨みを抱いている65歳のボーア人寡婦ジョウアナ・グレイ。

 巨匠ジャック・ヒギンズは場面の転換が非常に巧みで、時系列に沿って展開される各登場人物の見せ場をテンポよくつなぎ、複雑なストーリーをわかりやすく綴ってゆく。
 また、シュタイナやデヴリンをはじめとするキャラクターが大変魅力的なことに加えて、彼らが発するセリフがいちいち素晴らしい。

 とりわけ、生命を賭けて任務を遂行しようとするシュタイナが、デヴリンとの別れ際に交わす会話が泣かせる。
 また、そのデヴリンが心ならずも恋に落ちてしまった村の娘モリイ・プライアに書き残した手紙の内容にも痺れた。

 ただ、その割に、愛すべき登場人物たちが死んでゆく場面は情感に乏しく、やや即物的に過ぎるような気もする。
 戦争秘史というノンフィクションの体裁を取っている関係上、あえて冷徹な表現方法を取ったのだろうか。
 
(発行:早川書房 ハヤカワ文庫 翻訳:菊池光 
 第1刷:1997年4月15日 第11刷:2013年2月15日 定価:1000円=税別
 単行本発行:1992年7月
 原語版発行:1975年 イギリス)

 2017読書目録

23『深夜プラス1[新訳版]』ギャビン・ライアル著、鈴木恵訳(初出1965年、2016年/早川書房)
22『女の一生』ギ・ド・モーパッサン著、新庄嘉章訳(初出1883年/新潮社)
21『ホライズン』小島慶子(2017年/文藝春秋)
20『ロバート・アルドリッチ大全』アラン・シルヴァー、ジェイムズ・ウルシーニ著、宮本高晴訳(2012年/国書刊行会)
19『最後の冒険家』石川直樹(2008年/集英社)
18『完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯』フランク・ブレイディー著、佐藤耕士訳(2015年/文藝春秋)
17『モンティ・パイソンができるまで/ジョン・クリーズ自伝』ジョン・クリーズ著、安原和見訳(2016年/早川書房)
16『勝ち過ぎた監督/駒大苫小牧 幻の三連覇』中村計(2016年/集英社)
15『旅人の表現術』角幡唯介(2016年/集英社)
14『漂流』角幡唯介(2016年/新潮社)
13『雪男は向こうからやってきた』角幡唯介(2011年/集英社)
12『百田尚樹『殉愛』の真実』宝島取材班他(2015年/宝島社)
11『夫のちんぽが入らない』こだま(2017年/扶桑社)
10『1984年のUWF』柳澤健(2017年/文藝春秋)
9『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』角幡唯介(2010年/集英社) 
8『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一(2016年/中央公論新社)
7『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』大崎善生(2016年/角川書店)
6『うしろの正面だあれ』海老名香葉子(初出1985年/金の星社)
5『この世界の片隅に』こうの史代(2008年/双葉社)
4『これが広島弁じゃ!』灰谷謙二監修(2016年/洋泉社)
3『薬物とセックス』溝口敦(2016年/新潮新書)
2『ミナトのせがれ』藤木幸夫(2004年/神奈川新聞社)
1『誘拐』本田靖春(初出1977年/ちくま文庫)