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『最後の冒険家』石川直樹
2017年06月19日(月)


 著者は作家・石川淳の孫で、七大陸最高峰を制覇した探検家であり、土門拳賞を受賞した写真家であり、本作で開高健ノンフィクション賞を受賞した作家でもある。
 世間には「冒険家」と照会されることも多いが、石川本人は未知のフロンティアや人跡未踏の地を訪ねた経験がないことから、自分は冒険家ではなく、冒険家という存在そのものが現代では存在し得ない、としている。

 そうした認識を持つ著者が、この人こそは「最後の冒険家」と評しているのが本書の主人公、熱気球で様々なパイオニア・ワークを試みた神田道夫である。
 神田に探検家としての経験と技術を買われた石川は、自らも神田の人柄と情熱に惚れ込み、熱気球による太平洋横断にパートナーとして同行することを決意する。

 著者と初めて対面した神田が、淡々とした口調で自分の気球飛行歴をまくし立て、有無を言わせぬ調子で同行の承諾を迫るくだりが面白い。
 口調や態度はもの柔らかなのに、いったん気球の話に入ると自分の言いたいことばかり一方的にしゃべり続け、相手が拒否するなどとは端から考えようともしない、という良くも悪くも一直線な性格がよく描かれている。

 そんな神田に引っ張られるようにして、著者は毎週末、栃木の片田舎へ連れて行かれ、熱気球飛行の手ほどきを受ける。
 土曜の夜に好事家が集まり、翌朝早く起き出して離着陸ポイントへ出かけ、初めて宙に浮いた感覚を語るくだりには何とも言えない昂揚感が感じられ、おれもこの講習会に参加して熱気球に乗ってみたい、と半分本気で考えた。

 こうして熱気球で太平洋に乗り出した神田と石川は、飛行中のトラブルによって墜落、着水した手作りのゴンドラが浸水し、危うく命を落としかけたところでアメリカの貨物船に救助される。
 神田はすぐさま再挑戦の計画を立て、ふたたび石川を誘うが、石川はそうした神田の性急さに危うさを感じて頑なに拒否、かくて単独で太平洋横断を試みた神田は案の定、離陸してしばらくのちに消息を絶ってしまう。

 ノンフィクション、及び著者の熱気球飛行体験記としては非常に面白い。
 ラストのオチも含めて過不足なく結構しており、かなりの完成度の高さを示している。

 ただし、神田道夫というアマチュア冒険家の評伝としては食い足りない部分、腑に落ちない部分もあり、嚥下しがたい読後感が残るのも確か。
 神田がそれほど捉えどころのない神秘的な人物であったということだろうか。

(発行:集英社 集英社文庫 初版第1刷:2011年9月25日 定価:640円=税別
 単行本発行:集英社 2008年11月)

 2017読書目録

18『完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯』フランク・ブレイディー著、佐藤耕士訳(2015年/文藝春秋)
17『モンティ・パイソンができるまで/ジョン・クリーズ自伝』ジョン・クリーズ著、安原和見訳(2016年/早川書房)
16『勝ち過ぎた監督/駒大苫小牧 幻の三連覇』中村計(2016年/集英社)
15『旅人の表現術』角幡唯介(2016年/集英社)
14『漂流』角幡唯介(2016年/新潮社)
13『雪男は向こうからやってきた』角幡唯介(2011年/集英社)
12『百田尚樹『殉愛』の真実』宝島取材班他(2015年/宝島社)
11『夫のちんぽが入らない』こだま(2017年/扶桑社)
10『1984年のUWF』柳澤健(2017年/文藝春秋)
9『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』角幡唯介(2010年/集英社) 
8『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一(2016年/中央公論新社)
7『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』大崎善生(2016年/角川書店)
6『うしろの正面だあれ』海老名香葉子(初出1985年/金の星社)
5『この世界の片隅に』こうの史代(2008年/双葉社)
4『これが広島弁じゃ!』灰谷謙二監修(2016年/洋泉社)
3『薬物とセックス』溝口敦(2016年/新潮新書)
2『ミナトのせがれ』藤木幸夫(2004年/神奈川新聞社)
1『誘拐』本田靖春(初出1977年/ちくま文庫)
新潮45 12月号
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中日・京田陽太
「プロ1年目は
出来過ぎでした」
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