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『勝ち過ぎた監督/駒大苫小牧 幻の三連覇』中村計
2017年03月21日(火)


 駒大苫小牧の3連覇を阻み、初優勝を果たした2006年夏の甲子園大会に臨む前、早実の監督・和泉実は「向こう10年間勝てなくても、今年くらいは勝たせてくれというくらいの気持ち」とマスコミにコメントしていた。
 そのときの心境を、和泉は著者にこう打ち明けている。

「『向こう10年』の人には申し訳ないんだけど、それぐらい今年は懸けてるんだと。マスコミを通じて、それを選手に伝えたかったし、大会運営者も、世間も、巻き込みたかった。見えない力っていうのかな、それをお借りしてぐらいの気持ちがあったことは確かですね」

 その「見えない力」とは何だったのか。
 著者は、あの劇的な決勝戦、延長十五回引き分け再試合を経て早実が駒苫をくだした戦いを評して、こう書いている。

〈駒大苫小牧が甲子園で一四連勝していた相手にはなく、早実にあったもの。それは北のチャレンジャー・駒大苫小牧を上回る「物語」だった。〉

 甲子園に限らず、野球がわれわれを魅了するのは、まさにこの「物語」があるからこそだ。
 早実ではなく駒苫の監督・香田誉士史を主人公にした本作の「物語」は、そのことを改めて、おれのようなすれっからしのライターにも教えてくれる。

 和泉の言葉に倣えば、向こう10年、本作を上回る高校野球監督の「物語」は生まれないのではないか。
 過去に遡っても、世に名将列伝≠ヘ数々あれど、これほど面白く、生々しい監督の評伝は他に例を見ない。

 本作は昨年、以前から読もうと思いながら先延ばしにしていたところ、取材で訪ねた某強豪校の監督に「中村計の香田の本は面白いよ」と勧められた。
 その後、別の機会に知り合った高校の監督や高野連関係者からも、本作や著者の評判を随分聞いた。

 中身がしっかりしていれば、著者の志が伝われば、少々どぎつい暴露的要素があっても、読者は支持してくれる、球界関係者も理解してくれる、ということをいまさらながら再認識させられた。
 ただし、ここが小さいようで重要なポイントなのだが、香田が駒大苫小牧の監督を辞めてから10年以上経っているから書くことのできたエピソードが少ないないことも察しられる。

 著者は何度か、香田に関するエピソードを書くに当たって逡巡したという記述を挟んでいる。
 しかし、それも香田の個人的名誉や自分との個人的関係を懸念してのことであって、それ以上の大きな意味を持つものではないように思える。

 おれが15年前に『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』を書いたとき、川相はまだ現役で、巨人や球界からどのような乱反射があるかに備えなければならなかったケースとはまったく状況が異なる。
 そういう意味で、もっと早く書かれるべき本だった、という印象も拭えない。

(発行:集英社 第1刷:2016年8月10日 定価:1700円=税別)

 2017読書目録

15『旅人の表現術』角幡唯介(2016年/集英社)
14『漂流』角幡唯介(2016年/新潮社)
13『雪男は向こうからやってきた』角幡唯介(2011年/集英社)
12『百田尚樹『殉愛』の真実』宝島取材班他(2015年/宝島社)
11『夫のちんぽが入らない』こだま(2017年/扶桑社)
10『1984年のUWF』柳澤健(2017年/文藝春秋)
9『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』角幡唯介(2010年/集英社) 
8『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一(2016年/中央公論新社)
7『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』大崎善生(2016年/角川書店)
6『うしろの正面だあれ』海老名香葉子(初出1985年/金の星社)
5『この世界の片隅に』こうの史代(2008年/双葉社)
4『これが広島弁じゃ!』灰谷謙二監修(2016年/洋泉社)
3『薬物とセックス』溝口敦(2016年/新潮新書)
2『ミナトのせがれ』藤木幸夫(2004年/神奈川新聞社)
1『誘拐』本田靖春(初出1977年/ちくま文庫)
週刊現代5月13日号
「野球選手の人生は
13歳で決まる」C
青山学院大学
・鈴木駿輔
特別定価460円
新潮45 5月号
カープ打線大躍進
を担う
「小さな赤ヘル」
東出輝裕
定価880円