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『漂流』角幡唯介
2017年03月17日(金)


 昨夏出版された角幡唯介の最新長編ノンフィクションだが、批評家や熱心なファンの間でも賛否両論、大きく評価が分かれているようだ。
 角幡ノンフィクションの愛読者であるぼく自身、大変興味深い題材を丁寧に取材し、詳細に綴っていることに感心した反面、冗長と批判されても仕方がない、と感じたのも確か。

 原因は、著者が手法を間違えたことにある、とぼくは思う。
 本作については、ノンフィクションにおける手法に論点を絞って感想を述べてみたい。

 ノンフィクションには一人称形式と三人称形式がある。
 前者は「私」が語り手として前面に出てくるスタイルで、代表作に大岡昇平の『俘虜記』(1949年)、沢木耕太郎の『一瞬の夏』(1981年)、『深夜特急』(1986年)などがあり、角幡唯介の『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(2010年)、『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(2012年)もこの形式に属する。

 これに対し、三人称形式は著者がほとんど、もしくはまったく前面に出て来ず、著者が取材した人物が主人公となって様々な出来事が綴られる。
 沢木耕太郎がノンフィクション作家として優れているのは、一人称形式で優れた代表作を著している一方、三人称でも『テロルの決算』(1978年)、『凍』(2005年)といった秀作を発表しているところにある。

 ついでに、手前味噌を承知の上で書いておくと、ぼくの単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(2002年)は一人称形式だが、最近の『最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生』(2013年)、『失われた甲子園 記憶を失ったエースと1989年の球児たち』(2016年)は三人称形式に徹した。
 もちろん、ぼくがそれぞれの人物や出来事に興味を抱く個人的な理由はあったが、それを書いて読者に伝える必要性は必ずしもなく、大洋の田代や上宮高校の宮田など、ノンフィクションの登場人物たちに興味(という以上の愛情)を抱いてもらいたかったからである。

 本作はこれまでのような著者自身の探検記ではなく、本村実という沖縄・佐良浜の漁師の漂流を取材し、その半生を追ったジャーナリストとしてのルポルタージュだ。
 こういう題材と物語であれば、最初から三人称形式で書くべきだった、と思う。

 にもかかわらず、著者はあくまでも一人称で取材の顛末を語ることにこだわった。
 新たな証言や取材対象に邂逅するたび、会うまでにいかに苦労したか、その相手にどのような予断を抱いていたか、実際に会ってみたらどれだけ驚いたか、という自分自身の心境を滔々と語っている。

 著者はそうした描写に自分の心情を込めているつもりなのだろうが、読者にとっては過剰な前置きや解説がかえって邪魔に感じられ、主人公・本村実をはじめとする登場人物たちがなかなか見えてこない、こちらの脳裡で像を結ばない。
 従って、自分の船を沈没させ、フィリピン人船員たちに殺されて食べられかねないほど命からがらの目に遭いながら、ふたたび海に出て行方不明になってしまう漁師の話、という素材の面白さがストレートに伝わってこないのである。

(発行:新潮社 第1刷:2016年8月25日 第2刷:同年11月10日 定価:1900円=税別)

 2017読書目録

13『雪男は向こうからやってきた』角幡唯介(2011年/集英社)
12『百田尚樹『殉愛』の真実』宝島取材班他(2015年/宝島社)
11『夫のちんぽが入らない』こだま(2017年/扶桑社)
10『1984年のUWF』柳澤健(2017年/文藝春秋)
9『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』角幡唯介(2010年/集英社) 
8『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一(2016年/中央公論新社)
7『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』大崎善生(2016年/角川書店)
6『うしろの正面だあれ』海老名香葉子(初出1985年/金の星社)
5『この世界の片隅に』こうの史代(2008年/双葉社)
4『これが広島弁じゃ!』灰谷謙二監修(2016年/洋泉社)
3『薬物とセックス』溝口敦(2016年/新潮新書)
2『ミナトのせがれ』藤木幸夫(2004年/神奈川新聞社)
1『誘拐』本田靖春(初出1977年/ちくま文庫)
サンデー毎日
10月1日号
「カープ新井貴浩
独占激白!」後編
黒田との契り
定価380円
サンデー毎日
9月24日号
「カープ新井貴浩
独占激白!」前編
4番、連覇、引退
定価380円