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『雪男は向こうからやってきた』角幡唯介
2017年02月24日(金)


 傑作『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(2011年)に続く角幡唯介の探検ノンフィクション2作目。
 実際に探検を行なったのも原稿を書いたのも、『空白の五マイル』より本作のほうが先なのだが、本作を開高健ノンフィクション賞に応募したものの受賞を逸したために出版が宙に浮き、『空白の五マイル』の後に再評価されてようやく世に出た、という。

 スポンサーに頼らず自腹を切って海外へ探検に行くだけでも大変なのに、散々苦労して書き上げた300枚以上の原稿がお蔵入りしたら、おれなどは自棄になって出版社へ怒鳴り込むかもしれない。
 しかし、それほどのリスクを背負って書かれた作品だからこそ、この人の探検ノンフィクションは比類なき面白さを誇っているのだ、とも言える。

 本作の探検のテーマはタイトルにある「雪男探し」。
 昔の探検家の足跡を追った『空白の五マイル』とも『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(2012年)ともかなり趣を異にしたノンフィクションで、著者は新聞記者時代の先輩にどうしても頼み込まれ、雪男探しの捜索隊に加わってヒマラヤの山中へ分け入り、雪男は現れないかと一日中ひたすらカメラの望遠レンズで観察を続ける。

 面白いのは、成り行きでヒマラヤに行くことになった著者が、最初のうちは雪男の存在を頭から否定していながら、いざ探索に加わると雪男の出現を願うようになるところ。
 現地のチベット人たちに「そんなものいるわけない」と鼻で笑われ、ガックリしてしまった、というあたり、思わず吹き出しながらも、その心境はよくわかるような気がする。

 一方で、著者がヒマラヤへ行く前にインタビューした芳野満彦、田部井淳子ら、日本を代表する登山家たちは、はっきりと「雪男を見た」と証言している。
 小野田寛郎を発見、帰国を説得したことで有名になり、その後の生涯を雪男探しに捧げ、ついに遭難してしまった鈴木紀夫の物語も実に興味深い。

 これだけの冒険譚がいったん出版を棚上げされた、というのはおれの感覚からするといささか信じがたい。
 真面目な冒険物が好きな人も、川口浩探検隊のファンだった人もみんな読むべし。

(発行:集英社 集英文庫 第1冊:2013年11月25日 第2刷:2014年6月7日 定価:620円=税別
 単行本発行:集英社 2011年8月)

 2017読書目録

12『百田尚樹『殉愛』の真実』宝島取材班他(2015年/宝島社)
11『夫のちんぽが入らない』こだま(2017年/扶桑社)
10『1984年のUWF』柳澤健(2017年/文藝春秋)
9『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』角幡唯介(2010年/集英社) 
8『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一(2016年/中央公論新社)
7『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』大崎善生(2016年/角川書店)
6『うしろの正面だあれ』海老名香葉子(初出1985年/金の星社)
5『この世界の片隅に』こうの史代(2008年/双葉社)
4『これが広島弁じゃ!』灰谷謙二監修(2016年/洋泉社)
3『薬物とセックス』溝口敦(2016年/新潮新書)
2『ミナトのせがれ』藤木幸夫(2004年/神奈川新聞社)
1『誘拐』本田靖春(初出1977年/ちくま文庫)