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『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一
2017年02月16日(木)


 著者が「はじめに」で書いているように、応仁の乱という室町時代の戦乱の名称は知っていても、誰と誰が戦ったいくさだったのか、明確に答えられる日本人はそう多くはないだろう。
 ぼく自身も例外ではなく、最近出たこの本を手に取る気になったのは、手塚治虫原作のテレビアニメ『どろろ』(のち『どろろと百鬼丸』に改題、1969年)の背景が応仁の乱であったことを覚えていたためだ。

 『どろろ』では戦国乱世の中、出世を目論む大名・醍醐景光が48体の魔神像に対し、自分に天下を取らせてくれれば、近日中に生まれる我が子の身体を生贄として捧げよう、と懇願。
 こうして百鬼丸が生まれ落ち、魔神像に潜んでいた妖怪たちを殺し続け、自分の身体を取り戻しながら成長、ついに父・景光に壮絶な復讐を果たす。

 こういう「その他大勢」のひとりでありながら、出世欲に凝り固まった大名というキャラクターは、江戸時代はもちろん、有名な戦国武将のオールスターがそろっていた戦国時代にも存在しない。
 景光のような武将を生んだ室町時代の応仁の乱とはどのような戦乱だったのか、この疑問を50年近くも頭の隅に押し込んだままにしておいたところ、やっと勉強しようと思わせてくれる本が登場したわけだ。

 応仁の乱で激突する細川勝元の東軍、山名宗全の西軍の陣容がどのように形成されていったのか、著者は278ページの本文中たっぷり80ページをかけ、微に入り細を穿ってじっくりと説明する。
 この序盤についていくのが大変で、そもそもの火種は畠山義就・政長の内紛にあり、これに山名が介入したことによって事態がこじれ、もともとは決して対立関係にあったわけではない細川と事を構えることになったという。

 このような自説を展開するにあたり、著者が軸に据えているのが興福寺別当だった経覚、尋尊が残している日記。
 当然のことながら、彼らは常に比較的安全な奈良にいて、血の海となった京都の戦況をクールな目で見ているわけだが、それだけ客観的に戦乱の全体像を把握していたようである。

 従って、東西両陣営の利害・敵対・人間関係を80ページまでに読み込み、きちんと把握できると、それから先は大変面白く、ワクワクしながら読み進めることができる。
 例えとして適当かどうかはわからないけれど、この面白さは飯干晃一の『仁義なき戦い』(1973年、東映映画版の原作)、伊藤昌哉の『実録 自民党戦国史―権力の研究』(1982年)に通じるものがあった。

 足軽がどのようにして発生し、どのような人間たちが足軽になったのかも、本書を読んで初めて知った。
 要するに、戦乱に乗じて食い扶持にありつこうとしたチンピラ、ホームレス、愚連隊の集団だったわけで、このあたりも戦後ヤクザ社会の若者たちの群像によく似ている。

 大体、現代の感覚で冷静に考えれば、この時代の武家社会のありようがヤクザ社会そのもの。
 いったん利害や面子の問題で対立すると、親戚同士でも平気で殺し合い、それが首都(当時は京都)全体を戦場とする抗争にまで発展するんだから、『仁義なき‥』の広島死闘編なんて、昔に比べれば子供同士の小競り合いみたいなもんだよ。

 ぜひ御一読をお勧めしたい。
 もうベストセラーになっていますが。

(発行:中央公論新社 中公新書 初版:2016年10月25日 6版:同年12月25日 定価:900円=税別)

 2017読書目録

7『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』大崎善生(2016年/角川書店)
6『うしろの正面だあれ』海老名香葉子(初出1985年/金の星社)
5『この世界の片隅に』こうの史代(2008年/双葉社)
4『これが広島弁じゃ!』灰谷謙二監修(2016年/洋泉社)
3『薬物とセックス』溝口敦(2016年/新潮新書)
2『ミナトのせがれ』藤木幸夫(2004年/神奈川新聞社)
1『誘拐』本田靖春(初出1977年/ちくま文庫)
Number965
平成日本シリーズ
激闘録1991
広島vs.西武
定価600円